先ほどの車が消えたホテルが見える喫茶店。そこに彼らはいた。
「何で急に呼び出したんだよ、ネオ」
 まぁ、文句はないけど、とスティングは続ける。
「ひょっとしたら、目標がここにいるかもしれないからな」
 それも、二人……と言い返す。
「二人?」
 ステラがそう言って小首をかしげる。
「そうだ。一人は殺してもいいが、もう一人は確保、だな」
 そっちの方は、きっと、ステラも気に入るぞ……と微笑みかけた。それだけで彼女は嬉しそうな表情を作る。そうなるように調整されているとわかっていても、彼女の微笑みは可愛いと感じられた。
「で? どうすればいいんだ?」
 アウルが面白くないというような表情で問いかけてくる。
「そうだな……とりあえず、優先すべきは後者の方だ」
 本人さえ殺さなければ周囲にいる人間はどうでもいい。ただし、彼女の傍にいる以上、かなりの手練れだと見ていいだろう。ひょっとしたら、コーディネイターかもしれない。そう続ける。
「……連中、そんなにこわくねぇじゃん」
 この前だって、ちゃんと言いつけを守れたし……とアウルが言い返してきた。それはきっと、アーモリーワンでのことだろう。
「あの時は奇襲だったからな」
 連中も油断していたはずだ。だから、警戒をされているときにも同じような状況になるかどうかはわからない。そう続ける。
「俺は、お前達を失いたくないからな」
 この言葉に、彼等は一様に嬉しそうな表情を作った。
「だから、慎重に動け」
 決して無理はするな。そう言う。
「目標を傷つけるのはいい。だが、決して殺すな」
 そう言いながら、ネオは一枚の写真を取り出す。
「これが目標だ。殺してはいけない方の」
 殺していい方は既に顔を知っているだろう? と笑いながら付け加える。
「……綺麗……」
 ステラが小さな声で呟く。
「本当だ」
「これ、持って帰っていいんだよな?」
 他の二人も興味津々と言った様子で言葉を口にしている。
「あぁ。ただし、連中も抵抗すると思うぞ」
 だから、かなり厄介な状況になるはずだ。
「お前らなら出来ると思うが……気をつけろよ?」
 この言葉に、彼等は揃って首を縦に振ってみせる。それでも、彼等の視線は写真から離れない。
 自分以外の人間に彼等がこれほどまでに興味を示すとは思わなかった。自分に対する執着はそうなるように操作されている。だから、当然だと言っていい。しかし、彼女はまったく関係のない人間なのだ。
 あるいは、何か引きあうものがあるのだろうか。
 どちらにしても、都合がいい。
「うん、わかっている」
 それよりも、早くこれが出てこないかな……とアウルが呟く。
「いつかは出てくるさ」
 いつになるかはわからない。だが、彼等の立場を考えれば、必ず戻るはずだ。その時にはきっと、あの白いMSのパイロットが付いていくのではないか。
 だから、自分にはわかる。
 問題なのは、それとよく似たもう一つの感覚の方だ。
 それを感じた瞬間、自分の心の中で何かが警鐘を鳴らした。それが『危険だ』と叫ぶ声はどこから来るのだろうか。
 あるいは、自分の封印された記憶の中にその答えがあるのかもしれない。
 だが、それを無視してはいけないこともわかっている。
「だから、焦らずに待っていろ」
 彼等に向かって微笑みかけながらも、ネオはひたすら意識をとぎすませていく。
 そうすれば、彼等の存在を感じ取ることが出来た。
 だが、自分がこうして連中の存在を感じ取っているように、相手も自分の存在に気付いているのかもしれない。だとしたら、厄介だな。そう思う。
 だからといって、ここでやめるわけにはいかない。
 次にいつ、彼女が生身で自分たちの手の届く場所に姿を見せるかわからないのだ。
 このチャンスを逃すわけにはいかない。たとえ、犠牲を出したとしても、だ。
 だが、彼等を失うわけにもいかないという気持ちも嘘ではない。この矛盾が、あるいは自分を追いつめることになるのだろうか。
 そんなことを考えながら、ネオは視線を外へと向けた。



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最遊釈厄伝