「ご苦労様。無理をしたのでしょう。今日の所はゆっくり休んでちょうだい」
 アスランの報告を聞いて、グラディスはこう告げる。
「議長には?」
「私の方から報告をしておくわ」
 微笑みながら彼女はそう言う。それはいつものこと、といえるかもしれない。だが、微妙に引っかかるものを覚えてしまうのは錯覚だろうか。
「わかりました」
 それを彼女に問いかけてもはぐらかされるだけだ。それよりは、別の誰かに確認した方がいいに決まっている。そう判断をして、アスランは一旦引き下がる。
「では、失礼します」
 引っかかりを覚えると言えば、今回の任務もそうだ。
 別に自分でなくてもよかったように思える。
 まるで、自分をここから遠ざけようとしているように感じられた。
「……まさか……」
 通路に出た瞬間、アスランの脳裏にある可能性が浮かぶ。
「キラが、来ているのか?」
 それとも、ギルバートの方から出向いたのだろうか。
 どちらにしても、自分と彼女たちを接触させたくない。そう思っているのは想像に難くない。
 しかし、そのためにこのような姑息な手段にでられるとは思わなかった。
「あぁ、そうか。あいつらがいなかったのか」
 いつも、自分の存在を認めると同時ににらみつけてくる視線が今日は感じられない。それが違和感の正体だろう。
「さて、どこだろうな」
 キラに自分を近づけたくない。そう考えている者達がいることは知っている。だが、それに自分が従ういわれはないだろう。
「話をしないと、何もわからないから」
 そうだろう、キラ……と囁く。
「どうしてみんな、俺とお前が話をするのを邪魔するのかな?」
 カガリも含めて、だ。
「俺がお前を傷つけるなんて、あるはずがないだろう?」
 傷ついたというのであれば、キラが間違った道を進もうとしているからだ。だから、と思う。
 いや、キラ自身がその選択をしたのではなく、カガリに流されただけ、といえるかもしれない。
 どちらにしても、彼女たちともう一度話をしたい。
 だが、どうやらそれを邪魔しようと考えているのはアークエンジェルのクルーだけではないようだ。
「とりあえず、あの二人の居場所を確認するか」
 間違いなく、その近くで会談が行われているはずだ。だから、と呟きながらアスランは歩き出した。

「……キラはちゃんと話を出来ているのかな」
 カガリが小さな声でそう呟く。
「大丈夫でしょ。アスランと違って聞く耳を持っていらっしゃるんじゃないの、デュランダル議長って」
 少なくとも、自分が耳にした範囲では悪い噂はなかった……とミリアリアが言う。
「それに、あの人が付いているんだし」
「まぁな。昔はともかく、今のあいつはキラ一筋だし……」
 自分に力を貸してくれているのも、キラが望んだからだ。そうでなければ、彼のことだ。とっくにオーブをでていったのではないか。もちろん、その時はキラも連れていったに決まっている。
「今だって、キラを最優先にしているようだしな」
 自分はもう、傍にいて彼女を守れない。だから、彼女だけを見てその存在を守ってくれる存在はいてくれた方が嬉しい。
 そして、ラウが信用できる、と言うことはこの三年間で十分にわかっていた。
「ですが、相手は最高評議会議長ですからね。自分たちの不利にならないようにしようとされるでしょう」
 ラクスもこう言ってくる。
「もっとも、あの方が一緒ですから、オーブに不利になるようなことは約束してこない、と思いますわ」
 いや、自分たちに……と言い直すべきだろうか。言葉とともにラクスは小首をかしげた。
「個人的に、セイランの方々が困られても困りませんもの」
 むしろ、どんどん困って欲しい。そう言って微笑む彼女にカガリも同意だ。
「そうだな。ついでにボロを出してくれるといいな」
 そうすれば、オーブを追いだしてやれるのに。そうも付け加える。
「とりあえず、二人が無事に戻ってきてくれればいいが……」
 あれがいるからな、とため息を吐く。
「確かに。キラのこととなると妙にカンが働きますね、彼は」
 そして、斜め上のことをしでかしてくれる……とラクスも頷いた。
「どうして、さっさとふっちゃわないの?」
 ミリアリアが不思議そうに聞いてくる。
「何でだろうな……きっと、あれの手綱を放すとキラが不幸になりそうだから、かもしれん」
 顔だけはいいし、キラが絡まなければ優秀なのだ。だから、とカガリは呟く。
「何とか、キラを諦めさせないと……あいつだけじゃなく、回りも幸せになれないな」
 自分も含めて、と続ける。
「そう言う意味でも、デュランダル議長を味方につけたいですわ」
 ふふふ、と笑うラクスが怖い。しかし、その矛先が自分に向いているわけではないからいいか……とカガリは自分に言い聞かせた。



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