シンの端末が自己主張を開始する。
「シン?」
「わかっています、ハイネさん」
 隣にいた彼の言葉に頷くと、ポケットからをそれを引っ張り出した。そのまま、モニターに表示されている相手の名前を確認する。
「……ルナ?」
 何故、彼女が。そう思いながら通話のための操作をする。
「俺だけど?」
 何かあったのか、と聞き返した。
『アスランが帰ってきたのよ』
 だが、彼女の口から返ってきたのはあり得ないと思っていたセリフだった。
「……アスランがぁ? あいつ、任務は?」
 いくら何でも早すぎるだろう、と顔をしかめる。
『とりあえず、終わらせてきたみたいよ』
 今、グラディスに報告に行っている……と彼女は付け加えた。
「わかった。とりあえずレイに報告するから……何かったら、また連絡をしてくれ」
 こちらに気付かれなければ、それが一番いい。だから、下手に騒ぎ立てて気付かれるようなことはしてくれるな。言外にそう告げる。
『わかっているわ』
 任せておいて、とルナマリアは笑う。
『だから、手が空いたら、ケーキを買ってきて。そのホテルのラウンジのケーキ、おいしいのよ』
 メイリンの分も、と彼女はしっかりとリクエストしてくる。
「……手が空いたらな」
 まったく、と思いつつそう言い返す。
『じゃ、また後で』
 そんな彼の気持ちに気付いているのかいないのか。ルナマリアはそう言うと通話を終わらせる。
「その根性、別の方に向ければいいのに」
 ため息とともにシンは視線をハイネへと向けた。
「確かにな。まだ、ばれてないって?」
「多分……教えてくれた奴が直接確認したわけじゃないから、確証はないけど……動いたらまた連絡が来ると思う」
 どうするか、とハイネの判断を仰ぐ。
「……とりあえず、声だけはかけておかないとな」
 言葉とともに彼は壁の端末を操作する。
『何かありましたか?』
 直ぐにレイの声が返ってきた。
「あったというか、これからあるというか……とりあえず、アスラン・ザラがミネルバに帰還したそうだ」
 とりあえず、こちらに来るかどうかわからないが、連絡だけはしておく……と彼は続ける。
『暇ですね、あの人も』
 ため息とともにレイはそう言い返してきた。
『わかりました。議長に報告をしておきます』
 それと、とレイは言葉を重ねる。
『シン』
「何だ?」
 呼びかけられてシンはすぐに言葉を返す。
『情報元はルナマリアか?』
 それは問いかけではなく確認だ。
「ラウンジのケーキ、二人分だと」
 苦笑と共に言い返せば、室内で『そうか』といい返される。
「アスランが動いたら、直ぐに連絡をくれると言っていた。買って帰らないとまずいよな」
 でないと、次から協力をしてもらえなくなるような気がする、と続けた。自分たちがアスランの傍を離れているときには、彼女にその動きを教えてもらわないと対処が出来ないのだ。
『それに関しては手を打っておく。だから、連絡が入ったら構わないから端末で直接告げてくれ』
 その方が早い、と彼は続ける。
「わかった。次はそうする」
 ない方がいいんだけど、と口にすれば、直ぐに「そうだな」と言い返された。



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