こうして、二人の瞳の色を比べてみると本当によく似ている。
「……何か、悔しいね」
 無意識のうちにこんな言葉がこぼれ落ちた。
「何が、かな?」
 即座にラウがこうつっこんでくる。
「何か理由があるのだろうが……瞳の色がキラ嬢の所有権をお前が主張しているようでね。気に入らない、と思っただけだよ」
 そうでなければ、自分にもチャンスがあったのではないか。言外にそう付け加える。
「逆だよ」
 ラウが即答してくれた。
「これは、私がキラを守るという約束だからね。所有されているとすれば、私の方かな?」
 それに異論はないが、と口にする彼の表情はすがすがしいとさえ言える。いや、全てを吹っ切ったと言った方が正しいのか。
「まさか、君の口からのろけを聞くとはね」
 苦笑と共に言い返せば、キラが困ったような表情を作る。
「気にしなくて言い。あれの口の悪さは昔からだ」
 君のことを悪く言っているわけではない、と告げるラウの表情が優しい。本当に、変われば変わるものだ、とギルバートは心の中で呟く。
 いや、タイムリミットが明確に区切られる前は、時折あのような表情を見せていたような気もする。
 つまり、彼の変化はそれが原因なのか。
 そう考えながら、ドアの所に立っているレイの顔をさりげなく見つめた。そうすれば、どこかうらやむような視線を二人に向けているのがわかる。
「……まったく……レイの教育上よくないね」
 ため息とともにそう言う。
「お前の交友関係よりはましだろう」
 違うのか、と聞き返される。
「十分気をつけているつもりだが?」
 それよりも、とギルバートは続けた。
「挨拶代わりの言葉遊びはここまでにして、本題に入って構わないかね?」
 ラウをからかうつもりでこれ以上キラを追いつめるのはまずいのではないか。予想以上に彼女は繊細な精神をしている。それでもこうして立っているのは、ラウの存在があるからかもしれない。
 そう考えれば、少しうらやましい。
 たとえ一人でも、自分の存在を必要としてくれている空いている。そのことが、だ。
「構わないが……この話が他に漏れることは?」
「ない、と言いきって構わないよ。私にとって重要なのは、レイのことだからね」
 それ以外のクローンがどうなろうと構わない。そう言いきってはいけないのだろうか。だが、自分が関与していないものに付いてまで慈悲を与えてやれるほど優しい人間ではない。
「お前ならそうだろうが……他のものがそうだとは言い切れないだろう?」
 言外に、地球軍――いや、ブルーコスモスとの癒着を示唆される。
「レイの治療は私一人でやるつもりだよ。希望があるなら、そうだね……オーブで行っても構わないかな?」
 もっとも、その場合、戦争を終わらせ正式に条約を締結するまでレイには我慢して貰わないとけないだろうが。
「俺は、それでも構いません」
 レイがいつもの口調でこう言ってくる。
「そのためにはセイランではなくアスハが代表に戻らなければいけないが?」
「わかっているよ。私としても、そちらの方が都合がいい」
 プラントにとっても、だ。
「だから、協力関係を築けるというのであれば、その方がいいね」
 色々と、と続けた。
「それに関しては、後日だな。私たちの管轄ではない」
 もっと手厳しい方々におまかせしよう。そう言うラウに、ギルバートは苦笑と共に頷いてみせる。
「レイの治療に関しては、どこで行うかはともかく、教えることには異存はない。もっとも、そのために必要なものは、今、我々の手にはないがね」
 この言葉に、ギルバートは少しだけ表情を強ばらせる。
「どなたの手に?」
「母です」
 彼の問いにキラが静かな声で答えを返してきた。
「現在、マルキオ様と一緒にいますから、母の手から奪われることはないかと思います」
 彼女が《母》と言っているのは実母ヴィアではなく養母カリダの方らしい。
「何か、と聞いて構わないかね?」
 この言葉に、キラは小さく頷く。そして、ゆっくりと彼女は口を開いた。



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