ギルバートが会談の場に選んだのはザフトの基地ではない。彼が宿舎としているホテルだった。
 その最上階へは許可を受けたものしか足を踏み入れられないらしい。
「駐車場から直通で行けますから、人目を気にすることはありません」
 地下駐車場の一番奥、エレベーター前のスペースに車を止めながらレイが言う。
「なるほど。いざというときの避難路の一つ、と言うことか」
 ラウは苦笑と共にそう言う。
「それに関しては、ノーコメントで」
 いくらラウでも教えられない。そう言い返してくるレイの反応は好ましい。
 自分はもうプラントの人間ではないのだ。それを彼はきちんと理解していると言うことだろう。
「キラ」
 何か気になるのだろうか。彼女は周囲を見回している。
「どうかしたのかな?」
 気になることでもあるのか、と問いかけた。
「一瞬だけでしたけど、ここに入る前に、ラウさんとよく似た金髪の人を見掛けたので……」
 相手もこちらに気付いたようだったが、サングラスのせいで顔を確認できなかったから……とキラは言う。
「私に似た?」
「……もう少し、濃い色でしたけど……」
 共通の知人で似ている人は、と呟いた瞬間、彼女の表情が強ばった。
「キラさん?」
 ミラーでそれを確認したのか。レイが慌てたように振り向いた。
「誰に似ていたのだね?」
 自分に似ている相手で、髪の色が濃い。そう言われて真っ先に思い浮かんだのは《彼》だ。だからこそ、キラも言葉を飲み込んでしまったのだろう。
 しかし、そのままにさせておいてはいけない。
 自分の中にため込んで自家中毒に近い症状を起こされるよりは、少し強引でも聞き出してしまった方がいいとわかっていた。
「教えてくれないかな?」
 彼女の目を真っ直ぐに見つめながら問いかける。
「……ムウさんの髪の色に、似ていました……」
 それが功を奏したのか。しばらくためらった後、キラは小さな声でこういった。
「なるほど……気になるね、それは」
 自分たちが引っかかっていたこともある。やはり地球軍あちらには彼本人かその代わりとなる者がいるのだろう。それは自分たちが推測していたとおりだ。しかし、それの手がかりをキラが見つけてしまうとは思わなかった、
 ともかく、とラウは口を開く。
「後で、バルトフェルド隊長に相談してみよう」
 今はそれよりも優先しなければいけないことがあるとわかっているだろう? と続ける。
「はい」
 キラもそれはわかっていたのか。小さく頷いて見せた。
「では、とりあえずあの男に会いに行くか」
 相変わらずなのだろう? とレイに問いかける。
「……そう思いますが……議長になってから毒舌に拍車がかかったような気がします」
 それはきっと、大西洋連合の狸たちを相手にしているうちに拍車がかかったからだろう。
「まぁ、それは仕方がないね。キラに向けなければいいことにしよう」
 自分は耐性があるから、とラウは笑った。
「まぁ、キラはヴィアにそっくりだから、大丈夫だとは思うが……別の意味で問題が出てくるか」
 だからといって、渡すつもりはないが……と言外に付け加える。
「ラウさん?」
「……ラウ……」
 二人が異口同音に呼びかけてきた。
「本当のことだが、いけなかったのかな?」
 彼がヴィアに淡い恋心を抱いていたのはレイも知っているだろう? と続ければ、彼も頷いてみせる。
「と言っても、流石に年齢差がありすぎるし、そんなことがあったと知られたら、私の身が危ないからね」
 誰が何をしてくれるか。冗談のようにそう付け加えれば、ようやくキラの顔にも笑みが浮かぶ。
「その時は、僕が二人に言いますから」
 多分、それで大丈夫だろう。そう言うキラにラウは頷いてみせる。そのままさりげなく視線をレイへ向ければ、彼は静かに首を縦に振って見せた。
 ここは彼等に任せておいた方がいい。
「では、会いに行くか、あれに」
 そう判断をして、ラウはこう告げた。



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