「キラ」
 言葉とともに、ラウが手を差し出してくれる。それに掴まりながら、キラは軽々と船上から地上へと移動をする。
「では、キラ様。我々はこの近辺で待機しておりますので」
 二人を送ってくれたオーブ軍人がこう声をかけてきた。
「時間がかかると思いますから、適当に動いていてください。おそらく、街に出ても大丈夫だと思いますし……」
 あれこれ、必要なものもあるだろう。そう言えば、彼は「お心遣い、ありがとうございます」と頭を下げる。
「いざとなれば、議長の名を出せばいい」
 ラウもまたいつもの口調でそう言った。既に、事前に話は付いている、と続ける。
「わかりました」
 彼等が頷いたのを確認してラウはキラへと視線を向けた。
「じゃ、行こうか」
 そろそろ、迎えが来ている頃だろう。その言葉にキラは小さく頷く。
「お気をつけて」
 この言葉を聞きながら、二人は歩き出す。
 海岸から道路へと出れば、二人の前に一台の車が止まる。
「乗ってください」
 運転席からそう声をかけてきたのは、ラウによく似た少年だった。
「なるほど。やはり君が来たか」
 納得した、と言うようにラウは言う。と言うことは、やはり彼がそうなのだろうか。そう思いながら隣にいる人物を見上げる。
「あぁ。彼がもう一人の《私》だ」
 逆に言えば、だからこそ安全な人物だと言える……と彼は微笑む。
「大丈夫」
 この言葉に、キラは小さく頷いてみせる。
「なら、案内を頼もうか」
 言葉とともに、彼は後部座席に乗り込む。
「はい、ラウ」
 即座に返された言葉の響きが、子供達がカリダやラクスに返事をするときのそれに似ているような気がする。と言うことは、彼等はそう言う関係だったのだろう。そう考えれば、口元に笑みが浮かんだ。
 そのまま、キラもラウの隣に滑り込む。
「そう言えば……」
 ふっと思い出したようにラウが口を開く。
「あれは?」
 彼も、この地にいるのか……と言外に問いかけた。
「アスランでしたら、現在、カーペンタリアです。その後、ジブラルタルを回って戻ってくるように指示されているはずですが……」
 本人がそれを真面目に守るかどうか。それはわからないが、とレイは付け加える。
「彼は、こちらでも相変わらずのようだね」
 あきれているのかどうかわからない口調で、ラウは言葉を返した。
「まぁ、戻ってきたときは、その時だ」
 それなりの対処を取られるだけだろう、と彼は続ける。
「少なくとも、会談の場には入れませんから」
 その後は、ギルバートに任せるしかないが……とレイは言う。
「そのあたりのことは信頼しているよ」
 ラウのこの言葉に、彼が嬉しそうに微笑んだのが見えた。それだけ、彼のことが好きだったのか、とキラはその表情だけでわかったような気がした。
「もっとも、話し合いの結果は別だが」
「わかっています。ただ、俺はラウとギルが決めたことなら、従うだけです」
 どのような結果になっても、とレイは言い返してくる。
「……ラウさん」
 本当にそれでいいのだろうか。そう思いながら、キラはラウの名を呼ぶ。
「君が気にすることではないよ。彼の言葉は本心だろうしね」
 だからこそ、ギルバートの考えを確認しなければいけない。自分たちのことだけではなく、他の者達にも関わってくることだ。
「いいのですか?」
 本当にそれで、とキラは問いかける。
「何度も言っているだろう。私に新しい人生をくれたのは君だ。だから、私は君の傍にいて君を守ると決めたとね」
 キラの気持ちが変わっても、自分のそれが変わることはない。
 そう言いきってくれるのは嬉しい。だが、本当にそれがラウのためになるのだろうか。
「それとも、私の言葉が信用できないかね?」
 過去に君を傷つけた、と付け加える彼に、キラは首を横に振ってみせる。
「ただ……どうすればいいのか、それを考えていただけです」
 自分だけではなくみんなのためにも。そう言えば、ラウはそっと髪を撫でてくれた。



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