食堂には、オーブの軍人達も顔をそろえていた。その中の一人がキラ達に気付いたらしい。
「キラ様。こちらが空いております」
 即座に声をかけてくる。
「キラ様って……僕は、ただのパイロットですからそう言われる立場ではないです」
 カガリやラクスならわかるけど、と付け加えた。
「ですが……」
 困ったように彼は視線をカガリへと向ける。
「あきらめろ、キラ。こいつらはお前を尊敬しているんだと」
 公にしていないとはいえ、自分たちが双子なのは事実だ。公然の秘密である以上、彼等の態度は妥協するしかない。彼女はそう言って笑う。
「それとも、オーブ軍の階級でも押しつけられたいか?」
 現状では非公式なものだが、自分が押しつけることは可能だぞ……と彼女は続けた。
「カガリ……僕、何か怒られるようなこと、した?」
 思わずキラはそう問いかけてしまう。
「なんでそう思うんだ?」
 意味がわからない、と言う表情でカガリが聞き返してくる。そんな彼女になんと言い返せばいいのだろうか。
「キラは君と違って目立たない方がいい、と考えているからだよ」
 表に立てば、余計な雑音が耳に届く。それはキラにとってあまりいいことだとは思えないが……とラウはため息とともに口にした。
「その地位を目的に近づこうとしてくるバカも増えそうだしね」
 一番厄介なのはあの一族だが、と彼は続ける。
「それでなくても、キラはご自分がそのような立場になられるとは思っていなかったのですもの。困惑して当然ですわ」
 さらにラクスがそう言ってきた。
「ラクスまで……」
 そう言うなんて、とカガリが目を丸くしている。
「ですが、今回ばかりはキラが妥協して差し上げてください。彼等にしてみれば、わたくしたちとあなたを同列には考えられないのでしょうから」
 それに、自分だって昔はキラのことを様突きで読んでいたではないか。彼女はそう言って微笑んだ。
「……ラクス……」
 彼女の言葉には逆らうことを許さないような響きがある。しかし、どうしてもなれないものはなれない。
「諦めなさい、キラ。このくらいはね」
 さらにラウにまでこう言われてしまった。
「……はい……」
 仕方がないというようにキラは頷いてみせる。その瞬間、オーブの軍人達がほっとしたような表情を作った。
「とりあえず、パイロット達は、ラウさんとバルトフェルト隊長に預ける。こいつらの機体は、近いうちにエリカ主任が補給物資と共に送ってくれるそうだ」
 後は、地球軍とセイランのことか……と彼女はため息を吐く。
「それでしたら、あちらに戻った者達が調べてくれると言っておりました」
 アマギが静かに口を挟んでくる。
「それはそれは……こちらの負担が減るな」
 ほっとしたようにバルトフェルドが言った。
「そうですね。これでカガリとアークエンジェルの護衛は任せることが出来ます」
 代わりに自分たちが自由に動けるようになる。そう言ってラウも頷く。
「そのあたりのことは、そちらの指揮官と煮詰めた方がよろしいでしょうね」
 彼の言葉に、バルトフェルドも「そうだな」と笑った。
「こっちの話しもあるし」
 そう言いながら、彼はキラ達を手招く。
「あちらから、何か?」
 言葉とともに、キラは椅子に腰を下ろす。その隣に、当然のようにラウが座った。
「とりあえずは、だな」
 二人と個人的に会いたいと言ってきたぞ、と彼は笑う。
「カガリでもラクスでもなくな」
 理由はわかっているだろう? と問いかけてくる彼にラウは静かに頷く。
「まぁ、けりはつけてこなければいけない、と思っていますよ」
 うまくいけば、協力はともかく、こちらの存在を見逃してくれるだろう。それだけでもかなり楽になるのではないか。
「まぁ、そのあたりのことはお前の判断に任せるとして……とりあえず、俺たちとも話し合う機会が欲しい。そう伝えてくれ」
 希望があるとすれば、その位か……とバルトフェルドは続けた。
「あぁ。アスラン禁止は前提条件ですわよ」
 ラクスが当然のように付け加える。その瞬間、思わず笑いがこぼれた。



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