「そろそろ、食堂に顔を出さないといけない時間だよ?」
 ラウがそう言いながら、キラの髪の毛を撫でてくれた。
「そう、ですね」
 確かに、そうしないとカガリか誰かが押しかけてくるだろう。その後で引き起こされる騒動に付き合えるだけの気力が今の自分にあるかどうか。
「色々と話しもしないといけないでしょうし」
 きっと、カガリの方は結論が出ているはずだ。ラクス達も、いくつか方策を考えているような気がする。
「あちらから何か連絡が入っているかもしれないしね」
 それについても対策を考えないといけないだろう。だが、会わないわけにはいかないだろうね……と彼は続けた。
「ラウさん……」
「気付いているかもしれないが、あちらに、私と《同じもの》がいる」
 彼のことも話をしなければいけないだろう。そう続ける彼の声音には複雑な感情が見え隠れしていた。
「……レイ・ザ・バレルくんですね」
 カガリが教えてくれた、とキラは言い返す。
「あぁ……私の経験からすれば、そろそろ症状が出始める時期だ」
 どうするべきか今まで悩んできたが、どうやら敵には回らないらしいと判断したのでね……と彼は続ける。
「もっとも、君がいやならば……」
「僕は、構いません」
 それで彼が死の恐怖から逃れられるなら、とキラは微笑む。
「ラウさんの気持ちも、それで楽になるでしょう?」
 自分もその方が嬉しいから、と続ける。
「すまないね、キラ」
 こう言いながら、彼はそっとキラの頬を撫でてくれた。
「ラウさんが謝る事じゃないです。僕がそうしたいだけだから」
 自分の気持ちが、楽になるし……とキラは言う。だから、ラウが気にすることではない。そもそも、ラウのことだって、自分のワガママから始まったことではないか。キラはさらにそう続けた。
「それでも、だよ。君がワガママを言ってくれたおかげで、私はここにいられる。誰かを守ると言うことがこんなに素晴らしいことだ、と自覚させてもらえたしね」
 そう言った意味では、レイの方が大人かもしれない。彼は最初から大切な相手を守る事を自分の目的にしていた。
「相手があれと言うことだけが、個人的に引っかかるが……まぁ、妥協するしかあるまい」
 同じ存在とはいえ、育ってきた過程が違う以上、考え方が違うのは当然だろう。彼はそう言って苦笑を浮かべた。
「ひょっとしたら、今まで内緒にしていたことで恨み言の一つや二つ、ぶつけられるかもしれないね」
 まぁ、それは自分が別人だと言っても信じなかった彼等の頑固さも関係しているのだろうが。そう言ってラウは苦笑を浮かべた。
「まぁ、彼等の頑固さは許容範囲内だがね」
 守るべきものがしっかりと存在している故のものだから、とラウは言う。
「今の私が君を最優先に考えるのと一緒だよ」
 この言葉に、キラはふわりと微笑む。そのまま、彼の胸元にそっと額を押しつけた。
「でも、無理しないでください」
 ラウを守らなくていいことはわかっている。それでも、とキラは呟く。
「心配しなくても言い。そう簡単に死なせてもらえないからね」
 ラクスとカガリをはじめとする者達に、とラウは笑いながら告げた。
「と言うことで、そろそろ行こうか」
 どうやら、待ちきれなくなった方が外にいるようだよ……と彼はそのまま続ける。
「本当ですか?」
「おそらくね。気配を感じるから」
 さらりと言われても困るような、とキラは思う。
「ラウさんと一緒なのに」
 ため息とともにそう告げる。
「だから、余計に……と思っているのかもしれないよ」
 それはどういう意味なのだろう。そう考えて、キラは首をかしげる。
「わからないなら、わからなくていいのだよ」
 くすくすと笑いながら彼はそう言った。
「……ラウさんがそう言うなら……」
 自分はそれでも構わない。でも、何か釈然としないのは何故なのだろうか。
「では、皆が踏み込んでくる前に部屋を出ようか」
 この言葉にキラは頷いて見せた。



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