アスランのしたことは正しかった。
 軍人としては、そうとしか考えられない。だが、とレイはため息を吐く。
「別の視点としては違う感想を持ったかもしれないな」
 もっとも、そんなことを誰に言うことも出来ないが……と続ける。
「ラウは、どう考えているのだろうか」
 あの時、彼が複雑な感情を抱いていたことはしっかりと伝わってきた。彼がそうなのであれば、キラはなおさらなのではないか。
「できれば、その衝撃が抜けるまでの時間、あの人達をそっとしておきたいところだが、そうもいかないんだろうな」
 まだ、完全に地球軍が諦めたはずがない。
 いつ、連中が戻ってくるかわからないのだ。
「ギルだって、いつまでもここにいられるわけじゃないだろうし……」
 だから、彼等に妥協してもらうしかないのだろう。
「本当……人の心は難しいな」
 小さなため息とともにこう呟く。
「アスラン次第、なのかもしれないが……」
 彼の性格を考えれば、決して歩み寄ろうとはしないだろう。むしろ、キラ達を傷つける言葉を無意識に口にしてくれそうだ。
 そうなった場合、ラウはどうするのだろうか。
「……ギルがきっと、何とかしてくれる、よな」
 きっとそうに決まっている。だから、と考えるのは甘いのだろうか。しかし、それ以外に方法が見つけられない。
「俺にもっと実力があれば……」
 もっと違う結果になっていたのではないか。せめて、ラウと同レベルの……と考えるのは無い物ねだりなのかもしれない。だが、それでもそう考えずにはいられなかった。

 戦いが一段落すれば、アークエンジェルから連絡が入るものだ、と考えていた。
 しかし、自分にはおろかミネルバにも連絡は入っていないらしい。
「……何を考えているんだ?」
 自分が間違っているとは思わない。間違っているとすれば、キラ達の方ではないか。今でもその気持ちは捨てていない。
「そもそも、戦場に出てくるから、見たくない光景を目にする羽目になるんだろうが」
 百歩譲って、オーブから飛びだしたことは目をつぶったとしても、戦場に出てきたことはそうではない。しかも、彼等が手を出さなければならない戦いではないのだ。
「それがわからないから、俺が教えてやっているのに」
 なのに、どうして彼女たちはそれを理解しようとしないのだろうか。
 キラはまだ、感情的に不安定なところがある。そして、全てを自分が守らなければいけないと信じ切っているから、仕方がないのかもしれない。
 しかし、カガリとラクスは違う。
 二人は感情を抑えて理性的に周囲を見るなければいけない立場にある。そして、少なくとも、ラクスはその訓練も積んでいるはずなのだ。
 だから、キラがそんな風に考えなくてすむように、彼女たちが配慮をしなくてはいけないのに、と思う。
「それを言うなら、あの人もそうだけど、な」
 キラの側に当然のような顔をしている《彼》こそが、彼女をそのような場から遠ざけなければいけないのではないか。
「キラも、どうしてあの人を選んだのか」
 あんな会話を交わしていたはずなのに、とそんなことも考えてしまう。
 それとも、あんな会話を交わしていたからなのか。
「キラにとって、俺はなんなんだろうな」
 自分が先に彼女の手を放したのだ、と言うことはわかっている。カガリを好きだという気持ちも嘘ではない。
 しかし、それとこれとは別問題ではないか。
 そう言うときにはきっと相談をしてくれる。そう考えていたのに、とため息を吐く。
「どちらにしても、離れてしまった以上、あれこれ言えないのが辛いな」
 傍にいれば、いくらでも話が出来るのに。しかし、それも仕方がないことなのだろう。
「だが、外にいるからこそ、見えることもあるしな」
 問題は、彼女たちが自分の言葉に耳を貸そうとしないことかもしれない。
 本当に、何がいけなかったのだろうか。
 いくら考えてもわからない。
「……昔から、キラの希望はわかりにくいんだ……」
 もっとはっきりと口にしてくれればいいのに。八つ当たりだとわかっていても、そんなことを考えずにはいられない。
「だから、顔を見て話をしないといけないんだ」
 何とか機会を作らないと。そう呟く彼の表情を目にした者がいないことだけは幸いだったかもしれない。そう思わせるほど、鬼気迫るものだった。



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