デッキのハンガーにフリーダムが固定される。それを確認してキラはほっとため息を吐いた。
「……どうして……」
 次の瞬間、こんな言葉がこぼれ落ちる。
 結果的に見れば、確かに、オーブ軍は撤退をした。しかし、そのためにどれだけの被害を出したのだろうか。
「僕がしたことは、間違っていたのかな」
 小さな声で、こう呟く。だが、答えを求めているわけではない。きっと、誰もが自分が望んでいる言葉を口にするだろうことはわかっているのだ。
 それでも、失われた命が戻ってくることはない。
「……僕は……」
 小さなため息とともに言葉をはき出そうとしたときだ。
『キラ!』
 ハッチの外からカガリの声が響いてくる。
 自分よりも彼女の方が辛かったのではないか。だから、自分が落ちこんでいてはいけない。
「……指揮官は、全部責任を負うんだもんね……」
 ラウが以前、そう言っていた。
 だから、彼女の前では辛そうな表情を見せてはいけない。
「今、出るから」
 そう言い返すと、軽く自分の頬を叩く。そして、気合いを入れるとハッチを開ける。
「カガリ、どうしたの?」
 シートから立ち上がりながら問いかけた。
「ん〜、ちょっとな」
 そう言う彼女がどこか疲れているような気がするのは錯覚ではないだろう。
「後のことはバルトフェルド隊長達がやってくださるから、休んでいれば?」
 言葉とともに彼女の傍に降りる。次の瞬間、しっかりと抱きしめられていた。
「カガリ?」
「あいつが帰ってきていないんだ。今ぐらいいいだろう?」
 でないと、独占できないんだ、と彼女は言い返してくる。
「別に、ラウさんは気にしないよ」
 カガリとラクスが自分に抱きついていても、とキラは言う。ミリアリアもそうだろう、と付け加える。
 と言うよりも、そう言うことをやりそうな人間で却下されるとすればバルトフェルドとマードックではないか。
「わかっているんだがな。ゆっくりと堪能できない」
 ため息とともに彼女はそう言う。
「せっかく、ラクスが譲ってくれたんだ。しばらく堪能させてくれ」
「……カガリ……」
 やはり、彼女はあの光景に衝撃を受けていたのだろうか。それを癒せるなら、別に構わないのだが、と思いつつ、キラは口を開く。
「できれば、その前にシャワー使わせてくれると、嬉しいかな?」
 汗をかいているから、と言外につける。
「あぁ、そうだな」
 すまなかった、とカガリは頷く。
「あいつが帰ってくる前に、身綺麗にしておかないといけないか」
 キラも女の子だよな、と彼女は笑う。
「そう言う事じゃないよ……第一、カガリだって女の子じゃない」
 カガリだってそれなりに気をつけているじゃないか。そう言い返す。
「まぁ、そうだけどな……なら、一緒に行くか」
 髪の毛を乾かしてやろう。そう言って目を細める。
「……いいけど、こがさないでね?」
 前に一度やられたような記憶があるのだが、とキラは小声で付け加えた。
「今度は大丈夫だ。あの後、練習をしたからな」
 さんざん、とカガリは胸を張る。
 いったい、誰がその練習台にされたのだろうか。そう考えれば、一人しか思い浮かばない。
「そうなんだ」
 だから、言葉とともに苦笑を返すしかできなかった。



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