「……アスラン?」 まさか、と思いながらも、カガリがその名を口にする。しかし、間違いなく彼が操縦しているMSから放たれたビームがあの艦を炎に包んだのだ。 「カガリ……」 そっとラクスが彼女の腕に触れてくる。 「わかっている……あいつはやるべき事をしただけだと言うことは……」 だからといって、と唇を噛む。 「……ともかく、地球軍は撤退しているようです。皆には適時、帰還の指示を出して構わないかしら?」 絶妙と言えるタイミングでマリューがそう問いかけてくる。 「そうだな……そうしてくれ」 彼らも疲れているはずだから、とカガリは頷く。 「カガリさんはその前にその表情を何とかしてくださいね」 どうやら彼女はこれを言いたいがために自分に確認を求めてきたらしい。 「……わかった……」 確かに、こんな自分の表情をキラに見せるわけにはいかない。そんなことをすれば彼女がどれだけ辛い思いをするかわからないのだ。 「そうですわ、カガリ。その怒りはアスランにぶつけてくださいな」 彼相手ならば、何をしてもみんなが『いつものこと』で片づけてくれるだろう。そう言ってラクスが笑う。 「そもそもの元凶があれ、だしな」 本当に、最近、だんだん、自分たちの気持ちを考えられなくなってきてはいないか? と呟く。 「顔を見ていないから、なんてレベルじゃないぞ」 しかし、今はアスランの顔を見たくはないし……とカガリはため息を吐いた。 「仕方がない。キラを抱きしめてくるか」 がばっと抱きつけば、自分の表情に気付かれることはないだろう。ついでに、ラウのいやそうな表情も楽しめるのではないか。 「……キラに嫌われないようにご注意くださいませ」 やりすぎて、とラクスが口にする。 「大丈夫だろう」 キラが自分を嫌うはずはない。 「まぁ、適当なところでちゃんと解放するさ」 こう口にしながらも、自分の怒りが少しとはいえ収まっていることも自覚している。やはり、彼女が自分にとって最高の癒しなのだ、と改めて認識をしたカガリだった。 目の前の光景に、キラがどれだけ衝撃を受けただろうか。 「また、全てが自分のせいだと言い出しかねないね、あの子の性格を考えれば」 決して、彼女のせいではない。自分でもバルトフェルドでも、どうしようもなかったのだ。 そう言っても、彼女は納得しないのだろう。 「困ったものだね」 アスランのしたことは、戦略的には間違っていない。むしろ、自軍を守ろうとしたと言う点で称賛されても当然の行為だ。 しかし、カガリやキラにとっては違う。 『とりあえず、抱きしめてやるしかないんだろうな、お前が』 ため息混じりにバルトフェルドが声をかけてくる。 「そうですね」 それで落ち着いてくれればいいのだが、とラウは思う。 『あれのことはカガリが既にどうするか決めているだろう』 いい加減、腹に据えかねているだろうから……と言う言葉には同意だ。もっとも、問題なのは本人がそれをどこまで理解しているか、だ。きっと、彼は理解していないに決まっている。 そして、自分が正しいと信じ切っているはずだ。 「ともかく、キラを先に帰還させますよ?」 すこしでも早く、彼女を休ませたい。そう続ける。 『そうだな。それがいいだろう』 戻ればカガリからくすがで迎えるはずだ。彼女たちに任せておくのがいいのではないか。そう彼も同意をしてくれる。 『何よりも、あれと接触させずにすむだろうしな』 そろそろこちらに押しかけてきそうだ、と彼は付け加えた。 「あぁ。その可能性がありましたね」 では、そう指示をしましょう……とラウは頷く。 『任せた』 それは、キラがだだをこねると判断してのことか。 「仕方がありませんね」 苦笑と共に彼はそう言い返した。 |