地球軍の艦艇は、まるでオーブ軍のそれを盾にするように移動しているのが確認できた。 『……出来るだけ、オーブの船には当てないようにね』 難しいかもしれないが、と続けるグラディスの声が耳に届く。 「了解です」 即座にレイは言葉を返す。他の面々も同じような言葉を返したようだ。もっとも、ただ一人を除いては、だが。 『聞こえているの? アスラン』 あきれたようなグラディスの声が飛ぶ。 『聞こえていますよ、グラディス艦長。ただ、こちらに気付いた奴がいるようですので』 おそらく、先日奪取された機体だ……と彼は付け加える。 『これから戦闘状態に入る』 だから、余計な雑音は入れるな、と続けられたように思えるのは錯覚か。しかし、これで彼がフリーダムに向かう可能性は低くなった、とレイは思う。 『わかったわ。気をつけてね』 グラディスの言葉に、ほんの僅かだが見え隠れしている安堵の色も同じ理由からではないか。 しかし、それを確認している暇はない。 目の前に地球軍のMSが姿を見せたのだ。 『レイ! ここは任された!! 先に行け』 それを迎撃しようと思った瞬間、シンのこんなセリフが耳に届く。 「シン?」 『お前の方が、向こうとの連携も取れるんじゃないのか?』 だから、ここは自分に任せろ……と彼は同じセリフを言う。 ひょっとして、彼は何かに気付いているのだろうか。その可能性は否定できないな……と心の中で呟く。しかし、渡りに船だ、と言うことも事実だ。 「頼む」 そう言い残すと、少しでもフリーダムの近くに行くためにバーニアを全開にする。 途中でルナマリアもまた別の機体と交戦を始めたのがわかった。 「これで諦めてくれればいいんだが」 地球軍が、と呟いたときだ。何かがレイの精神に触れていく。その感覚には覚えがある。しかし、とレイは表情を強ばらせる。 「……ラウじゃない……」 これは、むしろ、ボギーワンを追いかけているときに感じたそれに近い。 と言うことは、やはりあちらにも自分たちと同じものがいるのだろうか。それとも《彼》なのか。 これも後でラウに確認してみよう。 そのためにも、この戦闘に勝たないといけない。 心の中でそう呟くと、レイはビームライフルを構える。 「本当は、殺さない方やいいんだろうけど……俺の実力じゃ、無理だからな」 相手が止まっていてくれるなら確実に当てる自信はあるが、とため息を吐く。しかし、実戦ではそんなことはない。しかも、敵味方の位置が状況によって大きく変化するのだ。 だが、キラはこのような状況でも推進装置だけを的確に破壊している。 「これが、あの人の生まれのせいだとは思いたくないが……」 それでも、やはり彼女の生まれが関係しているとしか思えない。だからこそ、彼女は真実を隠して生きるしかないのだろう。 だが、その隠している真実の中に、自分たちの命を長らえる手段があるのではないか。だからこそ、ラウが今、彼女の傍にいるのだろう。 その手段が手段だから、自分たちにも迂闊に教えられない。それはきっと、彼が自分たちを信頼していないからではなく、キラを傷つけかねない可能性があるからだ。 ラウがそう考えているのだろうと言うことも、想像に難くない。 「だから、せめて行動で示すしかない」 彼等に信頼してもらえるように、とレイは呟く。 その時だ。ムラサメが一機、こちらに近づいてくる。 『レイか?』 静かな声が誰のものか、確認しなくてもわかった。 「ラウ……」 『とりあえず、旗艦をねらえるかな?』 あれに傷が付けば、地球軍も撤退せざるを得ないだろう。そう彼は告げる。 「ですが……」 『我々のことは心配いらない。自分たちのことは自分たちで責任が持てるからね』 君達の存在がイレギュラーだ。だから、動きやすいだろう。そう彼が続けたときだ。 『タケミカズチ! 何をしている!!』 カガリの悲鳴のような声が耳に届く。何かと思って視線を向ければ、オーブ軍から一隻だけミネルバへと向かって進んでいる船が確認できた。 『……キラ……動きを止められるか?』 『ここからでは無理です。あのタイプの空母は、推進装置と機関部が隣接していますから……』 海中からでなければ、推進部だけを止められない。彼女は苦しげな口調でそう言い返している。 おそらく、可能ならば真っ先に行動に出ていたのではないか。しかし、出来ないからこそ苦しんでいる。そう考えれば、キラ・ヤマトも自分たちと同じ、ただの人間だと言うことになる。 『しかし、このままではミネルバにつっこむぞ』 バルトフェルドがこう言ったときだ。 一条の光がタケミカズチの上へと降りそそぐ。次の瞬間、その船体は炎に包まれた。 |