相手が地球軍だと言っても、相手を傷つけるかもしれない行為は納得できるものではない。
 だが、戦わなければ守れないと言うことも事実なのだ。
「だから……」
 ごめんなさい、と呟きながら、また一機撃墜をする。
 推進装置に損傷を与えただけだから、命に支障はないはず。それでも、こう言わずにいられない。
『キラ』
 そんな彼女の耳にラウの声が届く。
『辛いなら、下がっていなさい』
 自分が下がれば、戦力は激減する。それがわかっていても気遣ってくれる気持ちが嬉しい、と思う。
「大丈夫です……でも」
 こんなことを言っていいのだろうか。そう考えた瞬間、言葉が続かなくなる。
『でも、何かな?』
 しかし、彼は『構わないから言いなさい』と告げてきた。
「……戻ったら、抱きしめてくれますか?」
 それが一番安心できるから、とキラは言う。
『頼まれなくてもそうするつもりだったがね。でも、君のお願いならよろこんで』
 即座に彼は言葉を返してくれた。それだけでほっと出来る。
『お前達な』
 その時だ。あきれたようなバルトフェルドの声が耳に届いた。
『そう言うことは、終わってからゆっくりやれ』
 聞いている方が恥ずかしい、と彼は続ける。
「すみません」
 とっさにキラは謝罪の言葉を口にした。
『謝ることはないよ、キラ。この程度の会話を聞き流せない相手の方が心が狭いだけだよ』
 話によると、バナディーヤ時代のバルトフェルドはもっと恥ずかしい会話を垂れ流していたようだしね……とラウは笑う。
『人のことはいいんだよ』
 まったく、と彼は言い返す。
『よくありませんでしょう?』
 本当に、彼等は仲がいいのか悪いのか。直ぐ傍にいるというのによくわからない。それでも、こう言うときには息がぴったりと合っているのは彼等が根っからの戦士だから、だろうか。
 そうかもしれない、と思いながらキラはまた目の前の敵へと意識を戻す。
「敵だとか味方だとか……考えなくていい世界になればいいのに」
 そう思いながら、引き金を引いた。

 その光景を、忌々しい思いで見ている人間がいる。他の誰でもない。ユウナ・ロマ・セイランだ。
「まだ、出撃できないのか?」
 我が軍は、と彼が叫ぶ。
「……無理です。ウィルスの駆除が出来ません」
 下手に駆除しようとすると、逆にシステムが破壊される……と即座に言葉が返される。
「現在、生き残っているのは航行用のシステムだけです」
 攻撃用のシステムは既に自分たちの手には負えない。それこそ、本国に戻ってモルゲンレーテに修理を頼まなければいけないのではないか。
「なんなんだよ、それは!」
 それでは意味がないだろう、と言われてもどうしようもない。
 しかし、このままでは退却も出来ない、と言うことも事実だ。
「あの方々の意志には反するかもしれないが、な」
 誰かが責任を取らなければいけない。だが、ユウナ・ロマ・セイランにそれを望むことは不可能だろう。
「……アマギ」
「はい。なんでしょうか、トダカ一佐」
 即座に副官が歩み寄ってくる。
「総員に退去の命令を出しておけ」
 状況によっては、この艦を捨てざるを得ない。そう告げただけで彼には自分が何を考えているのかわかったようだ。
「トダカ一佐……まさか……」
「誰かが責任を取らなければなるまい。その後でなら、アークエンジェルに合流をすることも咎められまい」
 ユウナ・ロマに関しては、適法に放り出しておけば誰か助けてくれるだろう。そう付け加えたのは、せめてもの腹いせだと言っていいのかもしれない。
「……了解しました……」
 ですが、とアマギは言い返そうとしてくる。
「その前に、地球軍が撤退命令を出してくれれば、不要なことだがな」
 苦笑と共にそう付け加えた。しかし、その可能性は低いだろう、と言うこともわかっている。
 その時だ。
「敵影確認! ミネルバと思われます」
 こう叫ぶ声がブリッジ内に響き渡った。



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