ミネルバのデッキが慌ただしくなる。
「フリーダムが地球軍のMSと?」
「あぁ」
 シンの問いかけにレイが頷き返す。
「じゃ、あいつ、使い物になるのか?」
 あてにしない方がいいのか、と口にしながら視線を移動した。その先にはアスランの姿が確認できる。
「……邪魔しなければ、それでいい」
 ぼそっとレイがこう呟いた。
「何かあったのか?」
 ここまで嫌悪を顕わにしたことはなかったはずなのに。そう思いながら問いかける。
「心配するな。見解の相違があっただけだ」
 それであきれているだけだ、とレイは教えてくれた。
「それよりも、お前は大丈夫なのか?」
 フリーダムがいるぞ、と彼は言外に聞き返してくる。それはきっと、自分があの機体にどのような思いを抱いているか、彼が覚えているからだろう。
「命令だろう。だから、攻撃はしない」
 ちゃんと守る、と言い返す。
「あのパイロットには、聞きたいことがあるから……他のことはそれが終わってから考える」
 この言葉に、レイは満足そうに頷いて見せた。
「そうだな。きっと、話をすれば、お前も考えを改めるはずだ」
 彼はさらにこう付け加える。
「ともかく、彼等を無事に退避させなければいけない。できれば、ディオキアかその近海に、だ」
 もっとも、相手が従ってくれるかどうか……とレイは苦笑を浮かべる。そのまま、彼はまたアスランへと視線を向けた。
 アスランが何をしたのかはわからない。だが、何かあったとすれば、あの日だろう。そのせいでアークエンジェルと彼の間に亀裂が生じたらしい。
「……いっそ、出撃させねぇほうがいいんじゃね?」
 そのせいでぎくしゃくするなら、とシンは思う。
「そうできれば、な」
 自分たちにとっての隊長はあくまでも彼なのだ。出撃できる状態なのに無視するわけにはいかないだろう。
「まったく……ひょっとして、あいつって邪魔だからオーブを追い出されたわけじゃないよな?」
 何か、その可能性があるような気がしてきた。
「どうだろうな」
 ともかく、全ては事態が解決してから考えるべきではないか。今は無事に地球軍を撤退させることが最優先だろう。レイはそう締めくくると歩き出す。
「ドジるなよ」
 そんな彼の背中に、シンは冗談めかしてこう声をかけた。
「お前こそ」
 珍しくも彼はこう言い返してくる。
「……あいつも、緊張しているのか?」
 珍しい、と思う。暑くなることはあっても緊張することがないのがレイだと思っていたのだ。
「それも、作戦が終わってからなら、教えてもらえるかな?」
 教えてくれると嬉しいが、あくまでもそれはレイの都合だ。だから、と思いながらシンもまたインパルスへと急ぐ。
「ルナ。大丈夫だな?」
 途中でもう一人の仲間とすれ違った。そんな彼女にも声をかける。
「当たり前でしょ」
 彼女はそう言って笑う。
「うまくいけば、あのフリーダムのパイロットに会えるかもしれないんだもの。頑張らないわけないでしょ」
 自分にとってアスランやカガリと並ぶ英雄なのだから、とそう付け加える。
「……そう言うもんなんだ」
 他人にとってはそうなのか、とシンは今更ながら認識した。自分にとって、あれは憎悪の対象だったのに、とも。
 それとも、自分の認識が変わってきたからそう見えるようになってきたのだろうか。
「……わけ、わかんねぇや」
 ともかく、後で考えよう。今は命令を遂行するだけだ。
「ひょっとしたら、あの人が答えをくれるかもしれない」
 だから、自分も彼女と話をしてみたい。そのためには、フリーダムとアークエンジェルの安全を確保するのが第一か。
 その思いのまま、シンはインパルスのコクピットに飛び乗った。



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