地球軍の様子がおかしい。
「……何があったのだろうね」
 いきなり動きを止めてしまったのは、とギルバートは呟く。
「どうやら、オーブ軍の艦艇に不具合が生じたようですな」
 それにこう言葉を返される。
「なるほど……彼等の仕業かな?」
 その瞬間、脳裏に思い浮かんだのは、もちろん、アークエンジェルに乗り込んでいるであろう者達の顔だ。
「オーブの姫にしてみれば、苦渋の選択、と言ったところかな」
 戦わせたくはない。だが、自分の言葉は、今の彼等の耳には届かない。
 だから、戦えないようにしてしまえ。
 そう考えたのだろう。そして、それが実行できる人間が彼女のそばにはいると言うことだ。
「本当に、優秀な人材を手にしておいでだ」
 彼女に足りなかったのは、経験だけはないか。そう思えるのはこんな時だ。
 もし、彼女が後五歳年長であれば、世界は変わっていたかもしれない。もっとも、荘であれば三年前の、あの奇跡のような繋がりが生まれなかったかもしれないが。
「ともかく、地球軍の動きには注意しておいてくれ。もし、彼等が攻撃に出たら、直ぐに報告をするように」
 そして、と彼は言葉を重ねた。
「もし、地球軍と抗戦をしているのがアークエンジェルだった場合、ミネルバを救援に行かせてくれるかね?」
 彼等の存在が今後、必要となる。だから、と続けた。
「……了解しました……」
 渋々なのは、一隻だけとはいえ彼等の救援に差し向けるという事実からだろうか。それとも、自分たちが出撃できないからなのか。
「あの艦にはオーブの姫が乗っておいでだ。そして、もうお二方ね」
 彼女たちを地球軍に奪われたらプラントの未来はない。
「オーブが中立を保っていてくれるからこそ、我々は地球から資源を手に入れられる。それは君達もわかっているだろう?」
 いつまでも恨みを抱いていてはいけない。それでは前に進めない。そう付け加えた言葉を彼等はどこまで理解してくれるだろうか。
 だから、パトリック・ザラの亡霊がまだザフトにはとりついているのかもしれない。そんなことも考えていた。

 出撃の準備をしながらも、アスランは苛立ちを押さえられなかった。
「だから『オーブに帰れ』と言ったのに」
 どうして彼女たちは自分の言葉を無視するのだろうか。そして、彼等も何故、そんな彼女たちを諫めてくれないのか、と思う。
「お前達がしていることは、世界を混乱させるだけだぞ」
 どうしてそれがわからないのか。そう付け加えたときだ。
「でも、あの方々がオーブに戻れば、犯罪者として拘束されるでしょうね」
 背後からレイのこんな言葉が投げつけられた。
「犯罪者?」
 まさか、と言い返す。カガリと共にいるのにキラ達がそんな扱いを受けるはずがない。
「あの方々は結婚式の場からアスハ代表を連れ去ったのですよ? それがアスハ代表の意志だったとしても、セイランがそれを認めると思っておいでですか?」
 彼等にしてみれば、カガリは生きてさえいればいい存在ではないのか。さらに彼はそうも付け加える。
「アスハ代表がお産みになった子供、とも言いますね」
 さらに投げつけられた言葉に、アスランは目を丸くした。
「まさか……」
 いくら何でも、カガリがそれを受け入れるはずがない。そして、セイランだって、そこまで無体なことは出来ないのではないか。
「何故、そう言いきれるのですか?」
 しかし、レイはさらに言葉を重ねる。
「ブルーコスモスがどれだけ非道なことをしてきたのか。あなたもご存じのはずです」
 今のオーブは実質、そんな連中に支配されていると言っていい。そこがカガリやキラ達にとって本当に安全な場所だと言えるのか。
 この問いかけに、アスランはすぐに言葉を返すことが出来ない。
 オーブは安全だ。
 その認識がアスランの中から消えないからかもしれない。
「何よりも、あの人達が戦争を見過ごしていられるのかどうか。それをご存じなのはあなたのではありませんか?」
 黙ってしまったアスランに、レイはさらにこう言ってくる。
「まぁ、あなたがあの人達から見捨てられたとしても俺には関係ありませんが」
 こう言い残すと彼はきびすを返す。そして、そのままアスランから遠ざかって行く。
 そんな彼の背中を黙って見つめるしかできないアスランだった。



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