予想通り、と言うべきか。地球軍はまた進攻を始めた。もちろん、そこにはオーブ軍も同行している。
「少しは学習したようだね」
 地球軍の指揮官が、とモニターに映し出された光景を見つめながらラウは言う。
「……ラウさん……」
「あれならば、オーブ軍だけを除外して攻撃をするのが難しい」
 もっとも、短所がないわけでははない。指揮系統が異なる組織が入り交じっているのだ。何かあったときのとっさの対処がしにくいのではないか。
「その混乱をうまく付くことができれば、被害は最小限ですむだろう」
 もちろん、優秀な指揮官でもそうすることが難しいことは事実だ。
 だが、とラウは微笑む。
「そのあたりのことはバルトフェルド隊長におまかせすれば大丈夫だろうね」
 だから、キラは心配しなくていい。
「こら! 何、厄介ごとを人に押しつけているんだ、お前は」
 自分でも十分出来るだろうが、と即座に反論が飛んでくる。
「本当のことではないですか?」
 自分よりも経験が豊富でいらっしゃるから……と付け加えたのはイヤミでも何でもない。だが、本人はそう受け取らなかったようだ。
「……たかだか五歳しか変わらないぞ」
 ぼそっとこう呟く。
「そう言う意味ではないのですがね」
 苦笑と共に視線を彼へと向ける。
「地上戦の経験はあなたの方が豊富だ、と言いたいだけですよ」
 宇宙であれば自分の方が経験が豊富だが、と付け加えた。
「同じように考えてはいけない、とおっしゃっておられましたが?」
 さらに言葉を重ねれば、本気でいやそうな表情を彼は作る。
「……バルトフェルドさん?」
 どうかしたのか、とキラが問いかけた。
「お前……その後で自分が何と言ったか、覚えているんだろうな?」
 もちろん、覚えている。しかし、それをここで言っても無駄に時間を使うだけだろう。
「若気の至りですよ」
 とりあえず、ごまかすようにこういった。
「それよりも、タケミカズチがオーブ軍の旗艦、と見て構わないのかな?」
 そのまま話題を変えるようにカガリへと問いかける。
「おそらく、な。セイランの権限で出航させられる艦の中では、あれが一番、性能がいい」
 特に防備の面で、と彼女は言い返してきた。
「ならば、それを掌握してしまえばいいのかな?」
 正確には、その中にいるであろうユウナ・ロマを……とラウは告げる。
「……ったく」
 忌々しそうにバルトフェルドが言葉をはき出す。
「それでは意味がないだろう。あちらは、最後までカガリが《偽物》と言い張るだろうからな。やるなら、地球軍から切り離すところまでいかないとな」
 あるいは、艦艇だけを戦闘不能にするか、だ。そのまま、彼はそう続ける。
「しかし、それは難しいのではありませんか?」
 マリューが控えめな口調で疑問を投げかけてきた。
「船体に穴を開ければ、逃げ出せないものが出てくるでしょうし……砲塔を壊しても、特攻という手段を執りかねませんもの」
 そのさじ加減が難しい。そう彼女は続ける。
「……だが、それでも何とかしければいけないんだ……」
 カガリが絞り出すように言葉を口にした。
「オーブが他国に銃口を向けてはいけない」
 それだけは譲れない、と彼女は続ける。
「わかっているよ、カガリ」
 キラが静かな声で言った。
「そのために何しなければいけないのか。それを考えないと……」
 もっとも、戦うこと以外に出来ることはないが……とキラは蚊の鳴くような声で付け加える。そんな彼女に、ラウは「違う」と囁いた。キラが救ってくれたのは自分の命だけではない。心もだ。だから、違うと。
「いっそこの事、オーブ軍の艦が動けなくなってしまえばいいのでしょうが……」
 ラクスがこんな言葉を口にする。
「ウィルスでも流すの?」
 ミリアリアがこういった瞬間、彼女たちはキラへと視線を向けた。
「……なるほど。オーブ軍の暗号コードならわかっているからな」
 頑張れるか? とバルトフェルドも問いかけてくる。
「……制約なし、でいいですか?」
 空気がなくなることはないだろうから、とキラは聞き返す。それは宇宙空間での生活が長かったからだろう。
「もちろんだよ。それよりもスピードを重要視してくれると嬉しいね」
 この言葉に、彼女はしっかりと頷いて見せた。



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