ギルバートからの返答が戻ってくるよりも先に地球軍が動いた。当然、オーブ軍も一緒だ。
「ディオキア?」
 その目的地と思われる地名に、バルトフェルドは眉根を寄せる。
「あそこは、ザフトにとって重要な場所だったか?」
 その表情のまま、ラウに問いかけた。
「拠点の一つではあるが、重要だったという記憶はないが」
 だが、今現在は重要なのかもしれない。ラウは言外にそう付け加える。
「……あぁ、そう言うことか」
 それだけで何が言いたいのかを理解してくれるのは楽だ。
「君宛にメールが届いたときにはもう、議長閣下は移動中だった、と言うことか」
 そつがないと言うべきか。彼はそう付け加えた。
「地球軍もその情報を掴んでいる可能性はあるな」
「だとするなら、激しい戦闘になるな」
 そして、そこにオーブ軍も巻き込まれるだろう。
「……また、カガリは介入するだろうね」
 これは疑問ではない。確認だ。
「そして、キラはそんな彼女を守るだろう」
 当然のようにバルトフェルドが言葉を返してくる。
「あれがまた、邪魔しするだろうな」
 それも本格的に、とラウはため息を吐く。しかし、戦闘中にあんなセリフを投げつけられたら、キラの心はどうなるだろうか。
 ようやくふさがった傷がまた口を開けるに決まっている。
「それすらも考えられないとは……救いようのないバカだったのだな、あれは」
 オーブにいた頃にそれが見えなかったのは、きっと、キラが――彼の考える――安全な場所にいたからだろう。
 そして、カガリとラクスが完璧にその手のことからキラを切り離していたからに決まっている。
 だが、今はアスランは彼女たちの支配下にはいない。だから、押さえつけられていた本性が見えるようになったのではないか。
「まぁ、俺たちがあれを近づけなければいいだけのことだが……カガリのフォローもしなければいけない以上、ちょっと難しいか」
 せめて、後何人か、パイロットがいてくれれば状況は変わってくるのだろうが……とバルトフェルドは言う。
「もう一つ、厄介ごとの種がある」
 伝えるべきかどうかを悩んだのだが、とラウはため息とともに続けた。
「何だ?」
「おそらくだが、地球軍の指揮官は、あれだぞ」
 ムウ・ラ・フラガとよく似た《感覚》を自分に与える相手、だ。
「本人かどうかはわからんが……最低限、見た目だけはよく似ているはずだ」
 自分がレイとよく似ている程度には、と心の中で呟く。
「それが大人しくしていてくれればいい。だが、万が一、戦場に出ていてくるようなら、あの子なら気付くだろう」
 たとえ、どの機体に乗り込んでいても、だ。
「そうだろうね」
 確かに気付くだろう。バルトフェルドもそう言って頷く。
「キラが気付けば、当然、ラミアス艦長も気付くだろうね」
 他の者達もだ。
「ラミアス艦長にだけは、事前に伝えておくかい?」
 バルトフェルドが複雑な表情で問いかけてくる。
「どうしたものか……私には判断が出来かねるな」
 直接、彼の死に関わっているわけではない。だが、その原因の一端は、間違いなく自分との戦闘にあるはずだ。
 マリューがそのことで自分を恨んでいるかどうか、彼女の態度からはわからない。それはきっと、それ以上にキラのことを気にかけているからだろう。
 そんな彼女に不確定の情報を与えて感情をかき乱してもいいものかどうか。自分にはわからない、とラウは口にした。
「キラのことならば、だいたいわかるのだがね」
「……それはのろけかな?」
「どうだろうね」
 苦笑と共に言い返す。
「まぁ、それは脇に置いておいて……とりあえず、誰かが気付くまでは内密にしておく、でいいな?」
 バルトフェルドはこう言ってくる。
「それが一番だろう」
 実際に誰かが確認したわけではないのだ。だから、とラウは言う。それに、確認する手段を自分たちは持っていない。もっとも、キラが気付けば何とか確認しようとするだろうが。
「とりあえず、アスランだな」
 いっそ撃ち落とすか。そう言う彼に、ラウは「キラが見ていなければ構わないだろう」と言い返した。



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