「ご存じだと思いますが、自分は父と反目をした人間です」 それ以前でも、彼が自分に仕事のことを話すことはなかった……とアスランは続ける。 「それよりも、何故、そのようなことをお聞きになるのか。聞かせていただいても構いませんか?」 グラディス艦長、と彼は目の前の人物をにらみつける。おかげで、キラ達との話し合いを途中で切り上げなければいけなかったのだ。 「本国で、あるデーターが見つかったそうなの。最高評議会議長のみが閲覧できる、と言うフォルダの中にあったらしいのだけれど、カナーバ前議長もそれのパスワードをご存じないそうなのよ」 おそらく、パトリックが急逝したことが原因だろう。彼女はそう続ける。 「……そう、ですか」 あの父のやりそうなことだ、とアスランは心の中で毒づいた。 だからといって、その尻拭いを自分にさせないで欲しい。 しかし、彼等がこれほど焦って自分を呼び戻すほどの内容だ。いったい、どのような内容なのか。ふっとそんな疑問がわき上がってくる。 「いったいどのような内容なのか、教えていただけますか?」 ひょっとしたら、自分が受け継いだ他の何かにヒントが書かれているかもしれない。さりげなくそう付け加える。 「……ジェネシスを覚えているわね?」 それにグラディスは言葉を選ぶようにゆっくりと口を開く。 「それを小型にしたものが開発されていたそうなの。しかし、開発者が持っていた方のデーターは摘発されると同時に破棄されたそうよ」 だから、それを破壊したくても下手に触れればどのようなことが起きるのかわからない。 「……せめて、設計図でもあれば……と言うことだったらしいのよ」 そうすれば万が一のことがあっても対処できるから、という言葉には納得できる。 「……それは、自分の手元にはありませんが……」 何か記憶の隅に引っかかるものがある。 確か、誰かがそのようなことを言っていたはずだ。 「キラが、見つけていたような……」 それとも、違ったものだろうか。どちらにしろ、彼女にまかせればパスワードを解除することも難しくはないような気がする。 「……キラ?」 グラディスが即座に聞き返してきた。 「……自分の友人です。オーブ籍のコーディネイターで……」 その後、どう続けるべきか。本当のことを話すと、別の意味で厄介な状況になりかねない。 「あれこれと忙しかったので、データーの整理を頼んでいました」 だから、その時に何かを見つけたと言っていた。しかし、それが今回のことに関係しているものなのかどうかは自信がない。そう続ける。 「……そう。オーブ籍の……」 それでは確認するのは難しいわね、とグラディスはため息を吐く。 「申し訳ありません」 「いえ。仕方がないわ」 だが、どうすればいいのだろうか……と彼女は呟いた。 「議長がこちらにおいでになられるそうだから、その時に相談、かしら」 この言葉に、アスランは内心驚く。このような状況にもかかわらず、ギルバートが地球に降りてくる、と言うのか。 それはどうしてなのだろう。 自分の知らないところで何かが動いている。しかも、それに《キラ》が関わっているような気がするのは錯覚だろうか。 そのせいで、キラからまた笑みが失われては意味がない。 もっとも、戦場に出ていれば結果は同じような気がする。それがわかっていても、カガリ達は彼女を戦場に出すつもりなのだろうか。 こう考えただけで怒りがわき上がってくる。 「……とりあえず、失礼をして構いませんか?」 このままではグラディスに八つ当たりをしかねない。それよりも、何とかまた、アークエンジェルに連絡を取れないか考えた方がいいような気がする。 「えぇ、構わないわ。ただ、艦内で待機をしていてくれるかしら?」 現状では何があるかわからないから。そう言われて、渋々ながらアスランは頷く。 「では、失礼します」 言葉とともにきびすを返す。そして、そのままその場を後にする。 「本当に、何とかしてあいつらを戦場から遠ざけないと……」 また、あの日々を繰り返すことになるかもしれない。それだけは、何があっても避けなければいけないことでなかったのか。 「あなた達だって同じ考えでしょう?」 それなのに何故、と思う。 「キラは……『大丈夫』としか言わないはずなのに」 だから、周囲にいる者達が気をつけなければいけないのだ。それも彼等は知っているはずなのに、と思う。 「それとも、自分が傍にいるから大丈夫と考えているのか、あなたは」 確かに、キラが本当に壊れてしまわなかったのは、彼の存在があったからだ……と言われていたのは知っている。しかし、今回もそうだとは限らないだろう。 「あまり、ご自分の存在を過信しないでくださいよ」 ラウ・ル・クルーゼ、と口の中だけで付け加える。 そのまま、彼は足音も荒く歩き始めた。 そんな彼の後ろ姿を見つめている視線があるとも気付かずに…… |