「そう……そんなことをおっしゃいましたの、あの人は」
 ミリアリアの言葉を聞いた瞬間、ラクスの微笑みが氷のように冷たくなった。
「……ラクス?」
 ひょっとして、彼女にだけは聞かせてはいけなかったのではないか。キラはそう思わずにはいられない。
「そうよ。まったく、どうしてああなのかしら」
 しかし、ミリアリアは違ったようだ。
「あの人、キラがあんな様子だったときも何も気にしなかったわけ?」
 まったく、と彼女は続ける。
「気にしなかったと言うよりも、よろこんでいたかもしれないな」
 さらに二人の怒りに油を注いでくれるようなセリフをカガリが言う。
「キラがあいつに逆らったのは、ラウのことだけだからな」
 それは気に入らなかったらしい。だが、ラウの傍にいればキラが微笑んでいるから、妥協したと言うところか。
「あるいは、自分が傍にいられなかったから、と言うのもあったかもしれん」
 こうして確認すると、何で自分があれを好きだったのかがわからなくなってくるな……とカガリは呟く。
「キラ自慢が出来るから、でしょう?」
 違ったの? と言ったのはミリアリアだ。
「そうですわね。お二人でキラのことばかり話しておられましたわね」
 さらにラクスも頷いている。
「……そんなに酷かったか?」
 自覚はないのだが、とカガリが聞き返す。
「キラが嫌がって逃げ出す程度には酷かったように思いますけど……」
 違いましたか? とラクスは傍で苦笑を浮かべているラウへと視線を移した。
「私は別の意味で楽しかったがね。確かにキラには辛かったようだよ」
 泣きそうな視線を向けられたことも一度や二度ではない。そのたびに体調を理由に部屋へ連れ戻っていたが……と彼は頷いている。
「……そうか……それは、悪いことをしたな……」
 すまなかった、とカガリは素直に言ってくれた。それに、キラも苦笑を浮かべると首を小さく横に振ってみせる。
「ともかく、本当にあいつとの関係は考え直さないとな」
 しかし、そのせいでアスランの執着がキラに向かうのは困るし……とカガリは呟く。
「まぁ、それは君の好きにすればいい。今更、アスランにキラを渡すつもりは微塵もないからね」
 アスランが手を出して来るというのであれば、本気で反撃するだけだ……とラウは笑った。
「お前の恋を応援するのは不本意だが、キラのことを考えればアスランよりもお前の方が良さそうだからな。その時は協力しよう」
 さらにバルトフェルドまでが口を挟んでくる。
「……その前に、他にやることがあるんじゃないの?」
 思わずキラはそう言ってしまった。
「まぁ、そうだが……」
 しかし、とカガリは視線をキラに向ける。
「オーブのことと同じくらい、お前のことも大切なんだ!」
 だから、今だけはキラのことを優先したい。いずれ、それが許されなくなる日が来るだろうから……と彼女は言う。
「そうですわね。確かに、わたくしもいつかはそうしなければならない日が来ると思いますわ」
 ラクスも、少し寂しそうな表情で頷いてみせる。
「でも、ラウさんがキラの側にいてくださるから、心配はしておりませんわ」
 それに頷いていいものかどうか。キラは本気で悩む。
 いや、彼が傍にいてくれると言う点に関しては疑っていない。だが、それと彼女たちの言葉をイコールにしていいものかどうか。
「……ラウさんはラウさんで、みんなはみんなだよ。だから、傍にいてくれないと寂しいと思う」
 それでも、そうしなければいけない日が来るとはわかっているが……と続けた。
「でも、ミリィは傍にいてくれないけど、友達だから……きっと、割り切れると思う」
 こういった瞬間だ。いきなり周囲から三人に抱きつかれている。
「ちょっと、三人とも……」
「だって、キラが可愛いんだもの」
 慌てるキラに三人が異口同音にそう告げた。
「満足したら、返してくれるかな?」
 さらにラウまでがこんな軽口を言ってくれる。そんな言葉を口に出来るくらい、彼の心は軽くなったのだろうか。それならば、自分がしたことは間違っていなかった、と思いたい。
 しかし、三人の愛情は別の意味で重いような気がする。
 キラが心の中でそう呟いたときだ。
「……ラウさん」
 マリューの強ばった声が耳に届く。
「何か?」
 厄介ごとでも? と彼は聞き返す。
「……ラウさん宛にメールが届いています。プラント最高評議会議長から」
 もっとも、マルキオから転送されてきたものだが……と彼女は続ける。
「今度はあれか……」
 さて、どうしたものかな……と呟くラウの顔をキラは不安そうに見つめた。



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