「……そうか」 レイからの報告に、ギルバートは複雑な表情を作った。 「やはり、彼は私たちが知っている《ラウ・ル・クルーゼ》だったのか」 彼が生きていて嬉しい。しかし、彼が今、ここにいるはずがないのだ。彼の体は、あの時、既に棺桶に足を踏み入れているような状態だったと言っていい。それを周囲に悟らせなかったのは、彼自身の矜持の高さの結果だ、とギルバートは考えている。 「何か、彼の命を救うための方法があったのだろうが……」 それならば、何故、彼はその方法を自分に教えてくれないのだろう。ここには それとも、離れていた間に自分が変わったと思っているのか。 「……あぁ、それで、彼のあのセリフか」 自分の人となりを見てきて欲しい。そう言われたのだ、と彼は言っていた。 おそらく、自分が昔のままの《自分》であれば、彼はその方法を教えてくれるつもりなのだろう。だが、それを別のものに使うと判断すれば、自分には教えないつもりなのではないか。 しかし、あのこの事を見捨てるはずがない。 「本当に厄介な性格だね、君は」 慎重なのはいいが、とギルバートが笑う。 「私が連中のような馬鹿なことをすると思っているのか」 そう呟いたところで、自分が知っている《ラウ・ル・クルーゼ》のことを思い出す。 「そう考えるのが君だったね」 しかし、再会したときの彼は違った。 それは彼が死神の手を振り払ったからか。それとも、別の理由からなのだろうか。 「あるいは、死神の手から彼を奪った存在のせいかもしれないね」 こう言いながら、一枚の画像をモニターに呼び出す。 そこには、ラウの腕がその存在を守ろうとするかのように少女を抱きしめている写真がある。 かつて、淡い思いを抱いた女性。その女性によく似た容貌を持っている少女が何者なのか。それもギルバートはよく知っていた。 「やはり、鍵になるのは彼女か」 彼のこともオーブのことも……いや、ひょっとしたらこの戦争の行方も、だ。 「一度、ゆっくりと話をしたいね」 もっとも、二人きりというのは無理だろうが……と呟く。 「それでも、自分が同席するなら許してくれそうだけどね」 ラウは、と苦笑を浮かべる。 「まぁ、姫君方がどうかはわからないが……」 それでもコンタクトは取ってみるべきだろう。プラントの最高評議会議長としてではなく、レイの保護者として。ギルバートはそう呟いていた。 ギルバートが見ていたのと同じ写真を見ている別の人物がザフトにいた。 「こいつが、フリーダムのパイロット?」 その声音に『信じられない』という思いが滲んでいる。 女性のパイロットがいないわけではない。だが、自分が知っているそんな者達と、写真の中にいる相手が同じだとは、決して思えない。 しかし、アスラン達の言葉から総合して、そうとしか判断できないのだ。 「嘘だ……」 あんな言葉を言える存在が、あの時、自分たちを見捨てたなんて……とシンは呟く。 それとも、見捨てたくなかったのに見捨てなければならなかったのか。 「……その可能性はあるな……」 軍人である以上、命令には従わなければいけない。たとえ、自分が望まなくてもだ。 そして彼女はその事実を気に病んでいるように思える。 「でも、本当かどうかはわからないんだよな」 自分がそう思いこんでいるだけで……とシンは呟く。 「もう一度、会ってみたいな」 そして、話をしてみたい。 そうすればきっと、彼女のあの時の言葉が本心なのか、それとも建前なのかわかるだろう。 問題があるとすれば、その機会が来るかどうか、だ。 「なければ、作ればいいのか」 強引にでも、とシンは口にする。 「となると、後はレイだな」 彼の目をごまかす尾は難しい。だから、何とか味方に引きずり込むしかないのか。だが、それが一番難題のような気がする。 「それでも、何とかしないと」 そうしなければいけないと囁く声がするのだ。だから、とシンは呟いた。 |