アスランとの会話は、最初から平行線だった。
 彼はどうしても、自分たちをオーブに帰らせたらしい。しかし、そうすればどうなるか。いくら説明をしても理解できないようなのだ。
 それだけならば、まだ我慢できた。
「きれい事を言うな! お前の手だって既に他人の血で汚れているんだぞ!」
 しかし、キラに投げつけたこの言葉だけは許し難い。
「アスラン・ザラ!」
 ぶん殴ってやる、とカガリが腕を振り上げるよりも早く、ラウの怒りのためにさらに低くなった声が周囲に響く。
「君には、その原因が我々にあるという認識はないのかね?」
 せめられるべきは自分だろう、と彼は続ける。
「ラウさん」
 慌てたようにキラが彼の名を呼んだ。しかし、ラウは一瞬だけ彼女に視線を向けると、またアスランをにらみつける。
「確かに、命じたのは私だ。だが、彼女たちの存在を誰にも伝えなかったのは君ではないのかな?」
 もし、他の者達にそれを告げていれば、大きく状況は変わっていたはずだ。彼はそう続ける。
「あなたが、それをおっしゃいますか? クルーゼ隊長」
「だから、責任は私にある。そう言っているのだよ」
 そして、アスランにも……と彼はまた繰り返す。
「……クルーゼ隊長……」
 アスランが複雑な視線を向ける。何かを言いたいのに、投げつけるべき言葉を見つけられない。そんな表情をしていた。
「自分の非を認めて、少しでも償おうとしている。何よりも、そいつは同じ事を繰り返さないからな」
 だから、とりあえず、キラの側に置くことを認めた。そして、彼のキラへの気持ちが本物だとわかったから、二人の関係も認めた……とカガリは言う。
「だが、お前はどうだろうな」
 カガリはアスランへと言葉を投げつける。
「カガリ……」
「私たちが今、オーブへ戻ったらどうなるか。それもわからないのか?」
 わかってないから、あんな事を言ったのだろうが……とカガリはため息を吐いた。
「お前はオーブの代表だろう?」
 訳がわからない、とアスランは言い返してくる。
「名ばかりの、な」
 その事実は、アスランだってよく知っているではないか。カガリはそう言う。
「……それは、知っているが……」
 しかし、とアスランが言い返そうとする。だが、その動きが不意に止まった。そのまま、ポケットから端末らしきものを取り出す。次の瞬間、彼の表情が強ばった。
「ともかく、俺は認めない。オーブに帰らないというなら、絶対に介入してくるな」
 戦場に出てくるんじゃない、と言い残すと、そのままきびすを返す。
「アスラン!」
 慌ててキラが彼の名を口にする。
「……俺はまだ、納得したわけじゃないからな……」
 でも、と彼は一度足を止めながら言葉を重ねた。
「お前があの時とった行動は、お前にとって必要なことだった、と言うことだけは理解したいと思っている」
 出来るかどうかは、今でもわからないが……と言い残すと、そのままMSへと乗り込んでしまった。
「アスラン、お前なぁ! 言いたいことだけ言って逃げるんじゃない!!」
 カガリがそう言って叫んでも、気にすることなく機体を発進させる。
「……何なんだ?」
 複雑な表情でカガリが呟く。
「何か、厄介ごとが持ち上がったのかもしれないね」
 ラウが冷静に言い返す。
「我々も戻った方がいいかもしれない」
 緊急事態であれば、自分たちがここにいる方が危険だろう。彼はそう続ける。
「ミリィはどうする?」
 一緒に来る? とキラは友人に問いかけた。
「と言っても、荷物がまだホテルにあるのよ。カメラと重要なデーターだけは持ち歩いているけど、私服まではね」
 それを取ってきたい、と彼女は言外に告げる。
「なら、後で私が迎えに来よう。それで構わないね?」
「キラより安心ですね」
 その言葉に、ミリアリアが頷いて見せた。
「……何、それ……」
 どうして、そう言うことになるわけ、とキラは呟く。
「僕は一人で行動できない子供じゃないよ!」
 そう言った瞬間、他の三人が笑いを漏らした。



BACKNEXT

 

最遊釈厄伝