目的地にたどり着けば、そこには既にミリアリアがいた。
「……アスランは?」
 しかし、一緒にいるはずの彼の姿はない。
「ここで待ち合わせよ」
 自分が一緒にいたくなかったから、とミリアリアは言い返してくる。
「そこにいる人みたいに、自分の非を認めているならまだ許せるけど……あいつは違うから」
 まったく、と怒りを顕わにしていると言うことは、また何か余計なことを言ったのだろうか。
「……やっぱり、一発殴るか」
 ぼきっと指を鳴らしながらカガリが呟く。
「……カガリ……」
 いいのか、それで……と思う。一応、二人は恋人同士ではなかったのだろうか。もっとも、普段からアスランはカガリによく殴られていたような気もするが。
「指が太くなるわよ、カガリさん」
 苦笑と共にミリアリアが告げたこ言葉も、やはりどこかずれているような気がする。
 ここにラクスがいたらどうなっていたのだろうか。
 ふっとそんなことを考えてしまう。次の瞬間、その結果、アスランを襲うであろう恐怖を明確に脳裏に思い描けたせいで、自分までもが怖くなってくる。
「あぁ、来たようだね」
 そんな彼女の肩を抱くように手を置きながら、ラウが低い声でこういった。
「ラウさん?」
 そこに怒りすらを感じて、キラは彼を見上げる。
「公私混同は慎むように、と教えられなかったのかな、彼は」
 その理由は直ぐにわかった。
「MS……」
 それも、つい先日見掛けた機体だ。
「どうやら、あそこに彼もいたらしいね」
 だからこそ、連絡を取ってきたのだろうが……とラウはため息を吐く。
「しかし、あれの使用許可を出すとは、現在のザフトの指揮系統はどうなっているのか」
 彼はあきれたように続ける。
「まぁ、私には関係のないことだがね」
 自分は既にザフトではないのだから、と、彼は笑った。
「アスランがあてにできない以上、カガリのフォローも私の役目だろう」
 ラクスのそれをバルトフェルドがしているように、と彼は続ける。その瞬間、キラの胸をよぎったもやっとした感覚は何なのか。
 だが、その答えを見つける前に、別の感覚が彼女を襲う。
「ラウさん?」
「どうやら、予想以上に彼は信用されていないのかな?」
 それとも、別の理由からか……とラウはため息を吐く。
「気が付かなかったことにしておきなさい。でなければ、カガリがミスをしそうだ」
 もっとも、彼女の場合、怒りの方が大きいだろうから、そう言った点では心配いらないのかもしれないが。彼はそうも続けた。
「いいんですか?」
「構わないだろう。少なくとも、近くにオーブ軍も地球軍もいない。彼女の足を引っ張るものはいないからね」
 それに、恥をかくのはアスランだ。
 彼のその言葉は何か違うような気がする。しかし、それを問いかけようにも、アスランが乗っていると思われるMSが着地をしたせいでタイミングを逃してしまった。
「何を考えているんだ、あいつは」
 ハッチから顔を出した相手を見て、カガリがあきれたように呟く。
「何も考えていないと思うよ」
 アスランのことだ。手っ取り早いから、と言う理由であれを使った可能性も否定できない。確かに、ラウの言うとおり、公私混同だろう。
「……やっぱり、殴る……」
 カガリが小さな声でそう呟いた。
「とりあえず、あれの主張を聞かせてもらわないといけないからね。その点だけは注意してもらえるかな?」
 それによって、今後、彼をどうするか。それを決めるから、とラウが彼女に声をかける。
「わかっている。私もどうするか決めるさ」
「お手柔らかにね」
 あれの手当てはしたくないし、キラにもさせたくないから……とミリアリアが言う。
「アスラン、どんどん、自分の評価が下がっているって、知っているのかな?」
 ワイヤーを使ってハッチから降りてきている彼を見ながら、キラが呟く。
「予想もしていないだろうね。ある意味、彼は父君にそっくりだよ」
 その視野の狭さが、とラウが言う。それにキラは、またため息を吐くしかできなかった。



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