オーブ軍と地球軍が撤退をしたのは、それぞれにかなりの損害を受けてのことだ。
 しかし、とカガリは唇を噛む。
「私の行為は、無駄だったのか?」
 誰一人、自分の言葉に耳を貸してくれるものはいなかった。それどころか、ユウナの言葉で攻撃すらしてきたではないか。
 もっとも、彼等にしてもキラが傍にいる以上、それが自殺行為だとわかっていたはず。
「……軍人だから、か?」
 あるいは、キラが傍にいたからこそ、攻撃をしても大丈夫だと思ったのか。そう呟いたときだ。
「それでも、きっと、カガリの声は彼等の心に届いていたよ」
 きっと、ただの民間人であれば協力をしてくれただろう。そう言いながらキラが歩み寄ってくる。
「キラ」
「それでも、彼等は軍人なんだ」
 どのような理不尽な命令でも従う義務があるのだ、と彼女は続けた。
「それでも、みんな、その範囲で出来る限りのことをしてくれたよ」
 君を傷つけないように、と言われてカガリは目を丸くする。
「みんな、君が偽物だなんて思っていない」
「……なら、何故……」
 自分の言葉に従ってくれなかったのか。そう呟くものの、カガリにもその理由はわかっている。わかっていても、感情が納得してくれないのだ。
「あの時、オーブ軍が撤退したくても出来なかったから、と言う理由もあるかもしれないね」
 地球軍がオーブ軍の後方にいたから、とキラは言う。
「後は……あそこにいたのがみんな、立派な軍人だから、かな?」
 だから、彼等の存在を誇りに思わないと……と彼女は微笑む。
「……わかっている、さ……ただ、自分の無力さが歯がゆいだけだ」
 もし、自分がオーブの国政をきちんと掌握できていれば、セイランの好きにさせなかった。そして、こんなところで彼等の命を無駄に散らさなくてすんだではないか。
 そう考えれば、悔しい。
 カガリは素直にそう口にする。
「結局、私はただ、代表のまねごとをしていただけなんだな」
 それでいい気になっていたなんて、と続けた。
「カガリが、それを自覚できた、と言うことはいいことじゃないの?」
 そう言いながら、キラがそっと抱きしめてくれる。
「君は今、生きてここにいる。だから、これからそれを改善していくことも出来るんじゃない?」
 間違えない人間なんて、誰もいない。大切なのは、それを繰り返さないことではないか。彼女はそう続ける。
「大丈夫。僕も、手伝うから」
 ね、と言ってくれるキラに小さく頷いて見せた。
 確かに、自分はいまい来ている。そして、これから今までの失態を取り戻すことも出来るだろう。もっとも、オーブの国民が自分を再び受け入れてくれるのであれば、だが。
「だから、今は、どうすれば被害を最小限に抑えられるか。それを考えよう?」
 キラの言葉はもっともだ。
 しかし、彼女にそんな風に気を遣わせてしまったという事実が歯がゆい。本来であれば、もう二度と、こんな立場に立たなくていいのに。
 だが、自分にはキラの力が必要なことも否定できない。
 それでも、自分の足場がしっかりと確立できれば、キラを早く解放してやれるだろう。
「そうだな……」
 現状をどうすれば解決できるのか。それを考えなければ……とカガリは頷く。
 自分一人では答えを出せなくても仲間達がいる。みんなの意見に耳を傾ければ、きっと答えを出せるのではないか。
 そんなことを考えていたときだ。
「二人とも、ここにいたね」
 どこか焦ったような表情を見せながら、ラウが歩み寄ってくる。
「何かあったのですか?」
 キラも彼のそんな表情は初めて見たのだろうか。不安そうに問いかけている。
「ラクス嬢が怒りまくっているのでね。キラが顔を見せれば、落ち着いてくれるかな……と」
 バルトフェルドとそう言う結論に達したのだ。彼は苦笑と共に付け加える。
「ラクスが?」
 何があったのだろう、と別の意味でキラは不安になったらしい。
「行ってみるのが一番だろうな」
 ラクスがそんな言動を見せるのは珍しいから、とカガリは言う。
「そうだね」
 キラもそれに同意らしい。小さく頷いて見せた。



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