おそらく、最初からそのつもりでオーブを引き込んだのだろう。そう思わずにはいられない。 「……ザフトと戦火を交える、だと?」 カガリが信じられないというように呟く。 「残念だが、本当だ。地球軍と共にオーブ軍が進撃しているのは確認した」 ラウは冷静な口調でそう告げる。 「ちなみに、オーブ軍の指揮官は、ユウナ・ロマ・セイランだそうだ」 さらにこう付け加える。その瞬間、カガリの顔が怒りに染まった。 「何を考えているんだ、あいつは!」 オーブ軍はオーブ国民を守るために存在している。その軍を他国への侵略に使うなんて、と彼女は拳を握りしめた。 「ダメだよ、カガリ」 その拳をキラがそっと開かせる。 「掌が傷つくよ」 だから、とそのまま、キラはカガリの手を握り込んだ。 「……それよりも、君はどうしたいの?」 真っ直ぐに彼女の瞳をのぞき込みながら、問いかけの言葉を口にする。 「キラ……」 それに、カガリは困ったような表情を作った。それも無理はない。カガリはおそらく介入することを望むだろう。ひょっとしたら、自分の言葉でオーブ軍が撤退をしてくれるかもしれない。そう考えているのではないか。 もちろん、彼等は軍人だ。たとえ、誰の言葉でも命令に従うだけだ、と考えているはず。だから、現在は指揮官の座にないカガリの言葉に耳を貸さないだろう、とラウにはわかっていた。 いや。彼だけではない。 バルトフェルドやマリュー達も同じだろう。 カガリ自身、その可能性には気付いているのかもしれない。 それでも、万が一の可能性にかけたいと思っているのではないか。 「……私は……」 そして、自分がそれを口にすれば、キラはどのような辛いことでも受け入れてしまう。それがわかっているから、彼女はためらっているのだろう。 「カガリは?」 キラがそんな彼女のためらいを壊そうとするかのように問いかける。 「言ってくれないと、わからないよ?」 さらにそう付け加えた。 「そうですわね。カガリがどうしたいか。まずはそれをお聞きしないと」 ラクスもまた、彼女の背中を押すようにこういう。 「……私は、そこに行きたい」 自分に何が出来るかはわからない。だが、オーブの軍人達が戦っているのであれば、この目でその様子を見なければいけないのではないか。 「私の言葉を聞いて、ひいてくれるものが、一人でもいないとは限らない」 その可能性があるのなら、彼等に撤退するように呼びかけたい。カガリはそうも続けた。 彼女は彼女なりに、それがどれだけ難しいことか、わかっているのだろう。 そして、キラも、だ。 「わかった、カガリ」 それでも彼女はカガリを安心させるように微笑むと口を開く。 「君が望むなら、行こう」 この言葉に、カガリの方が驚いたような表情を作った。 「大丈夫。君は僕が守るから」 そんな彼女に、キラはさらにこう告げる。 「そして、キラのことはラウさんが守ってくださいますわ」 そうでしょう? とラクスが視線を向けてきた。 「もちろんです」 それが自分にとっての存在意義だから……とラウは微笑む。 「仕方がない。お前達のフォローは俺がしよう。特に、カガリのか?」 バルトフェルドもこう言って頷く。 「では、決まりね」 マリューがこう言って視線を他の者達へと向ける。それを合図に、ブリッジクルー達がそれぞれの役目をこなすべく、行動を開始した。 「……でも、本当にいいのか?」 カガリがキラにそう問いかけている。 「うん」 彼女が小さく首を縦に振るのが見えた。 「それに……何かが、待っている。そんな気がするんだ」 だから、行かなければいけない。そんな気がする。キラはそう付け加えた。 |