別に、イザーク達に説得されたからではない。 しかし、いくら考えてもそれ以外に地球に戻れる方法がなかった。だから、と心の中で呟きながらアスランはギルバートへ面会を申し入れた。 「復帰をしてくれるそうだね」 顔を見た瞬間、にこやかな表情で彼はこう言ってきた。 「不本意ですが、現状ではそれ以外に自分に出来ることはないかと」 ザフトにいれば、キラ達のフォローが出来るかもしれない。だから、と心の中で呟く。 「助かるよ。実際、経験不足は否めないからね」 もっと経験豊富な人間がいれば、別の選択が出来たのではないか。そう考えることもある、とギルバートは微苦笑と共に告げる。 「だから、前の戦争を生き抜いた人材は喉から手が出るほど欲しいと思うよ」 例えば、キラ・ヤマトとかね……と彼は意味ありげに笑う。 「あいつは、無理です」 反射的にこう叫んでしまった。 「アスラン君?」 「……あいつは、今でも他人を傷つけることに罪悪感を抱いています。ですから、無理です」 第一、そんなことをラクス達が許すはずがない。 何よりもあの男が、だ。 何よりも、彼女はオーブの人間だ。何があろうとザフトに入隊してくれるとは思えない。 「……そうかね」 それは残念だが、無理強いは出来ないね……とギルバートは頷く。 「まぁ、君だけでも戻ってきてくれて僥倖、と言うべきなのだろうが」 しかし、と彼はため息を吐いた。 「ここに、彼がいてくれれば、もっと安心できるのだろうが」 バルトフェルドのことを言っているのだろうか。 確かに彼であれば自分よりも経験が豊富だ。指揮官としても実力も折り紙付きだと言える。 だが、ギルバートと彼が親しくしていたと聞いたことはない。 「どなたでしょうか」 反射的にこう問いかけてしまう。 「ラウ・ル・クルーゼ」 即座に彼は一つの名前を口にした。 「ですが、彼は……」 プラントでも罪人だろう。だからこそ、あんな状況になっているのに、と少し忌々しいことまで思い出してしまった。だが、どういう事情があったのかはわからないが、キラが彼を選んだのだ。そして、キラが笑っているのだから妥協するしかない。 それはわかっていても、どこか納得できないというのも事実だ。 自分が恋の相手としてキラではなくカガリを選らんだことも否定しない。 しかし、そのせいでまさか彼を《義弟》と呼ぶことになるかもしれないというのは絶対にいやなのだ。 「まぁ、その位はどうとでもできるよ」 公私混同かもしれないが、と彼はさらに言葉を重ねる。 「先日、オーブの姫と一緒に来たときに誘ったのだがね。ふられてしまったよ」 何か理由があるのだろうか。そう言いながらアスランを見つけてくる彼の視線が変わった。 「……残念ですが、お答えしかねます」 同時に、どうして彼が自分にあのようなことを命じたのかもわかったような気がする。 間違いなく、最悪の状況を考えてのことだろう。 「それは、自分の秘密ではありませんので」 他人のプライバシーを侵害する気にはならない、と続けた。 「……なるほど……それは真理だね」 では、と彼は口を開く。 「君が彼に何を頼まれてきたのか。それは教えてくれないかな?」 そう来たか、とアスランはため息を吐いた。 「……貴方の人となりを確認してこい、だそうです」 もっとも、こちらは本人にばれたとしても支障はないと言われている。だから、と素直に口にした。 「おやおや。親友に疑われるとは悲しいね」 もっとも、とギルバートは笑みを穏やかなものに変える。 「まだ、歩み寄る余地は残されている、と言うことかな?」 この言葉の裏に隠されているものは何なのか。それを見極められないのは自分が力量不足なのかもしれない。アスランはそう考えていた。 |