ウナトの言葉を、カガリは信じられないと言う表情で見つめていた。
「まぁ、想像していたとおりだな」
「そうですわね」
 その隣で、バルトフェルドとラクスが頷きあっている。
「私があの場にいれば……」
 止められたのか、とカガリが呟くのが聞こえた。
「多分、無理だったと思うよ」
 そんな彼女に、キラは静かな声で断言する。
「彼等がその気になれば、いくらでも方法はある……ブルーコスモスが背後にいる以上、なおさらでしょ?」
 違う? と問いかければ、彼女は悔しそうに唇を噛む。
「でも、今、君はここにいる。それがオーブにとってプラスに働くかもしれないね」
 冷静な口調でラウがこう告げる。それはカガリを慰めようとしてのことなのだろうか。
「どういう意味だ?」
 だが、カガリにはそう思えなかったらしい。こう聞き返している。
「今回の同盟に署名したのは、あくまでも代表代理のセイランだ。代表首長である《カガリ・ユラ・アスハ》ではない、と言うことだよ」
 そして、オーブの国民はフリーダムがカガリを連れ去ったことも知っているはずだ。
「……つまり、これを私の真意だとは思っていない、と?」
「あるいは、君が戻ってきてくれればこのような条約は破棄できるかもしれない。そう考えているだろうね」
 特に、コーディネイターに近しい者達は……と彼は言い返す。
「家族、あるいは友人や恋人。そのような大切な者達と引き裂かれたくない。そう考えているのは私たちだけではあるまい」
 このままでは、自分たちはオーブにいられなくなる。
 だが、実際問題としてオーブを飛びだしてもどこに行けばいいのかわからない。
 しかし、カガリならば何とかしてくれるのではないか。そう考えているのではないか。
「だからといって、今すぐ君が戻っても、逆に連中に取り込まれて終わりだ」
 最悪、ユウナ・ロマとの結婚式の続きを強要され、その後で命を落とすことになるかもしれない。その言葉に彼女は頬をひきつらせた。
「そんなことは……」
「あり得ますわね」
 カガリの言葉をラクスが一言で否定する。
「相手はブルーコスモスですもの。それに命だけはあったとしても、あなたとしての意志がなければ意味がありませんわ」
 彼女はそうも続ける。
「……だから、どうしろと?」
「世界を見てくださいませ。あなた自身の目で」
 それでもカガリがオーブに戻りセイランと協調路線を取ろうというのであれば、自分たちは止めない。だが、戦うのであれば協力をする。
「全ては、あなたのご選択次第ですわ」
 彼女の言葉に、カガリは何かを考え込むような表情を作った。
「今の私では、何も出来ないと?」
「と言うよりも、経験は相手の方が上だ。だから、手玉に取られて終わり、と言ったところだな」
 マルキオですら自分自身とその周囲にいる者達を守るだけで精一杯だったのだから。バルトフェルドにまでこう言われてはカガリも認めないわけにはいかないらしい。
「大丈夫よ、カガリさん。あなたが選択できるまで、アークエンジェルは沈まないから」
 ねぇ、といいながら、マリューが周囲の者達へと同意を求めている。
「それに関しては疑っていない」
 ただ、とカガリは続けた。
「そのせいで、キラがまた戦場に立たなければならないことが、いやなんだ」
 自分がキラを守りたかったのに、と彼女は唇を噛む。
「なら、今度こそ間違わないような世界を作ればいい」
 戦いではない方法で懸案を解決しようとするような、とラウは微笑む。
「そのためにも、オーブは中立に戻らなければいけないんだ」
 彼の言葉にキラも頷く。
「そうだね……そのために戦わなければならないなら、戦うしかないんだよね」
 そのこと自体は怖い。でも、一人ではないから……と自分に言い聞かせる。
「大丈夫だよ、キラ。君を一人で戦場に立たせることはしない」
 自分が必ず傍にいる、と言いながら、ラウが彼女の肩を抱き寄せてくれた。
 それだけで安心できるのはどうしてか。そう考えながら、キラは小さく息を吐く。
「後、問題なのはアスランのことか」
 あれがどう出るのか。それが怖いな……とバルトフェルドが言う。
「その時はその時ですわ」
 その時は性根をたたき直してあげましょう、と微笑むラクスに、カガリもようやく声を立てて笑った。



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