目の前の光景が、直ぐには飲み込めなかった。
 オーブ代表首長カガリ・ユラ・アスハとセイランの嫡子との結婚式。まるでそれを妨害するかのように一機のMSが花嫁をさらったのだ。
「あれは……」
 その機体が何と呼ばれているのか。シンは知っている。
「フリーダム……」
 忘れたくれも忘れられるはずがない。あれが自分から家族を奪ったのだ。
 その機体が、何故、あんな行動を取るのだろうか。
「やっぱ、アスハと関係があったんだ」
 ない方がおかしいのか、と直ぐに思い直す。しかし、だからこそあの時、フリーダムはオーブ軍と行動を共にしていたのではないか。
 だが、とシンは笑う。
「でも、これでようやく、みんなの仇が取れる」
 今まではどうやってもあれの存在は確認できなかった。きっと、アスハが隠していたんだろう。
 だが、こうして表に出てきた以上、追いかけられないはずはない。
 ザフトだって、フリーダムを無視できないはずなのだ。
 いや、それだけではない。
 あれだけのことをした以上、オーブからもつけねらわれるに決まっている。
 それとも、そうしなければいけない事情があったのか。
 どちらにしろ、自分には関係のないことだ。
 重要なのは、あれと戦える機会が与えられる可能性が出来た。それだけだ。
 シンは心の中でそう呟くと、うっそりと笑った。

 数日後、セイラン代表代行の名において、オーブと大西洋連合の同盟が発表された。同時に、プラントに対する宣戦布告も、だ。
 その事実をアスランは苦々しい思いで聞いていた。
「……何を考えているんだ、あいつは」
 何故、カガリがそれを許したのか。彼はそう呟く。
「確認しないと……」
 しかし、どうやって確認をすればいいのだろう。現状ではプラントからオーブに戻れるはずがない。そして、オーブ側もコーディネイターを追い出しはすれ受け入れはしないだろう。
「あの人達なら、何か方法を確保できるのかもしれないけど」
 自分では無理だ。
「ともかく、マルキオ様に連絡が取れないかを確認してみるか」
 でなければ、キラだろうか。しかし、彼女の居場所をプラント側に知られるわけにはいかないような気がする。
「こうしてみると、俺は無力だな」
 ザラの息子という立場を失えば何も出来ることがない。そう呟いたときだ。訪問者を知らせるチャイムが鳴る。
「誰だ?」
 今の自分に会いに来るような酔狂な人間は……と思う。だからといって、無視も出来ない。
 仕方がない、と思いつつ腰を上げる。
「どなたですか?」
 そう言いながら、ドアを開けた。その瞬間、彼は目を丸くする。
「よう」
「久しぶり、と言うべきなのか?」
 まさかここで会うとは思っていなかった二人がそこにいたのだ。
「来ているなら来ていると、何故、連絡してこない」
 貴様は、と口にしながら、彼はさっさと室内へと足を進める。
「まぁ、そう言うなって。そいつにだって都合って言うものがあるんだし」
 そんな彼をなだめるようにもう一人が声をかけた。その様子は自分が知っている頃と変わらない。
「……相変わらず、と言っていいのか?」
 それとも、とアスランは視線を向ける。
「イザークにディアッカ」
 この言葉に、イザークはさらに顔をしかめ、ディアッカは苦笑を深めた。
 だが、彼等が決して交友を深めるためにだけここに来たのではないだろう。そうも推測している。
「ともかく、茶ぐらい出せ」
 話はそれからだ、と言うイザークは相変わらず偉そうだった。



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最遊釈厄伝