だが、予想通りと言うべきか。地上部は完全に破壊されたにもかかわらず、攻撃はまだ続いている。あるいはそこに誰の遺骸もないからかもしれない。
 こうなるとわかっていれば、ダミーぐらい用意して置いたものを……と心の中で呟く。
「……しかし、こうなると時間の問題だな」
 壁に目を向けながらバルトフェルドがそう呟く。
 宇宙船の外壁と同じ材質で出来ているとはいえ、MSの攻撃を完全に防ぐことは出来ない。だから、それは仕方がないことだ。
 不本意だが、仕方がない。
 心の中でそう呟きながら、ラウは無意識にキラの体を自分の方へと引き寄せていた。
「バルトフェルド隊長?」
 そのまま、彼へと声をかける。
「不本意だが、それしかないだろうな」
 このままでは、全員、ここで生き埋めだ……と彼はため息を吐く。
「ラクス?」
 そのまま、彼は表情を強ばらせている彼女へと声をかけた。その瞬間、無意識だろうが手にしていたハロを抱きしめている。
「……仕方がありませんわね……」
 だが、彼女もかつては戦場において指揮官――というのは微妙に異なるかもしれないが――という立場にいた存在だ。どうすれば一番被害が少なくすむのか、とっさに判断したのだろう。
 もっとも、それと感情は別問題だと言うことも否定するつもりはない。
「……ラウさん?」
 いったい、何の話なのか。キラが言外にそう問いかけてくる。
「今、わかるよ」
 だが、いやならいやと言っていいのだ……と囁いておく。
「そうだな。その時はお前が責任を取って何とかしろ」
 ラクスから鍵を受け取りながらバルトフェルドがそう言ってくる。
「もちろん、善処させていただくよ」
 あれの兄弟機は自分が操縦していたのだ。だから、何とかなるのではないか。もっとも、キラがカスタマイズしたOSの性能をどこまで引き出せるかは自信がない。そして、相手を殺さない、と言うこともだ。
「と言うことで、開けるぞ」
 そう言いながら、彼は鍵の片方をラウへと投げて寄越す。
「時間がない以上、仕方がないね」
 片手でそれを受け取ると、ラウはそっとキラから手を放した。
「大丈夫ですわ、キラ様」
 不安そうに瞳を揺らす彼女の傍に即座にラクスが歩み寄る。カリダがそれをしないのは、他の子供達を慰めているからだろう。
 だが、ラクスが一緒であれば大丈夫ではないか。そう思いながら足早に壁の傍にある端末へと歩み寄る。
「いいな? タイミングを合わせろよ」
 バルトフェルドがこう声をかけてきた。
「あぁ、もちろんだよ」
 心配はいらない、とラウも言い返す。
「では……3.2.1……0」
 この言葉とともにラウは鍵をひねる。もちろん、バルトフェルドも、だ。
 次の瞬間、壁がゆっくりと左右に開いていく。
 この先に外部とつながっている通路があるからだろうか。その瞬間、彼等の脇を風が駆け抜けていく。
 だが、それを気にする者は誰もいない。
 壁の奥に静かにたたずんでいるものに意識を奪われているのだろう。
「……フリーダム……」
 キラが小さな声でそう呟く。
「必要になる日が来るかもしれない。そう考えて、修理をさせておりました」
 キラにとっては不本意なことだったかもしれないが、とラクスが言う。
「そして、今、これが必要だろう?」
 不本意だが、皆の命を守るためには……とバルトフェルドが口を開く。
「さて……どちらが乗る?」
 自分には動かせない以上、動かせる人間に頑張って貰わないと……と彼は続けた。
「……僕が、行きます……」
 一瞬、目を閉じた後、キラがきっぱりと言い切る。
「いやならいいのだよ? 私でもこれは動かせる」
 念のために、ラウが問いかけた。
「いえ。僕が行きます。これは……僕の機体だから……」
 そして、皆を守りたいから。そう言う彼女にラウは小さく頷いてみせる。
「わかった。気をつけていっておいで」
 無事に戻ってきたら、思い切り甘やかしてあげよう……そう付け加えれば、彼女は淡い笑みを口元に浮かべた。



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