相手は、明らかに訓練された軍人だ。 この暗闇では流石に急所を外すという真似は出来ない。だからといって見逃すことは出来るはずがない。だから、とためらいを捨てて次々と相手を狙撃していく。 しかし、見逃したものもいたらしい。内部から銃声が響いてきた。 「キラ?」 そのまま、食堂へと飛び込む。 「僕は、大丈夫です」 でも、と言いながらキラが振り向く。その腕の中にいたのはラクスだ。 「……狙われたのは彼女か?」 キラではないという事実にほっとする。だからといって、気を抜くわけにはいかない。 「だが、何故、ラクス・クラインを?」 三年前ならばわかる。だが、今の彼女はただの少女だ。表に立たない限り、何の影響力も持っていないような気がする。もっとも、彼女を失えば心的衝撃は大きいだろう。 そう考えれば、失ってはいけない相手だ。 「まぁ、いい。それについては後で考えればいいことだね。それよりもケガをしたものはいないな?」 周囲を見回してこう問いかける。それに口々に子供達が答えを返す。 「大丈夫のようですね」 ラウには聞き分けられないそれもマルキオにはわかったらしい。微かな笑みと共に頷いてみせる。 「ともかく、カガリに連絡を取って,犯人を……」 キラがそう言ったときだ。今までとは違う振動が皆を襲う。 「……まさか……」 MSまで持ち出したのか? とラウは呟く。 「そんな!」 キラが信じられない、と言うように口にした。 「ともかく、シェルターに移動しよう。バルトフェルド隊長も、そちらで合流できるはずだ」 それから対策を考えてもおかしくはないだろう。ラウはそう告げる。 「そうですね。今は、子供達とマルキオ様達の安全を確保するのが第一です」 マリューもそう言って頷く。 「なら、急いだ方がいいでしょうね」 マルキオの言葉が合図になったのだろう。足早に移動が開始された。 戦争を経験しているからか――それとも、集団行動になれているのか――子供達もこのようなときには勝手な行動を取るものはいない。その事実に少しだけ目を細める。 だが、と直ぐに表情を引き締めた。 MS相手では、シェルターもいつまで保つかわからない。 もちろん、対策がないわけではないのだ。ただ、それはできるだけ避けたい手段でもある。しかし、子供達を守るためにはそれしかないというのも事実だ。 しかし、それがどれだけ彼女の心を傷つけるか。 これならば、カガリに話をしてこっそりと自分が扱えるMSを用意しておけばよかった。もっとも、そう考えているのは自分だけではないことも確信している。 「こっちだ!」 シェルターのドアの前でバルトフェルドが彼等を手招いているのが見えた。その表情も硬い。 「外の様子は?」 戦えない者達をまずシェルターの中に入れながらこう問いかける。 「見たこともないのが一個小隊、と言ったところだな」 もっとも、と彼は続ける。 「見たところ、モルゲンレーテのくせが見えるから、おそらく地球軍だろう」 そうだとするならば、ここを教えたのはセイランだろうか。 それとも、そう見せかけている他の組織か。 どちらにしても、今、自分たちが持っている情報だけでは判断できない。 「ともかく、ここの存在に気付かずに引き上げてくれることを祈るか」 扉を閉めながらバルトフェルドがこう呟いた。 「確かに。そうしてくれれば手間はないが……」 おそらく難しいだろう。 目的は何かはわからないが、彼等はその程度では引き下がらないだろう……とラウも考える。 「……かといって、オーブ軍の救援もあてにできそうにないな」 あれが絡んでいるのであれば、とバルトフェルドは唇だけで付け加えた。 「かといって、ジャンク屋も介入は出来ないだろう」 そうなると、やはり方法は一つしかない。 「まぁ、この憶測が外れてくれることを祈るよ」 バルトフェルドはため息混じりにそう告げる。 「そうだな」 ラウもそう言って頷く。 「……ラウさん」 そんな彼をキラが不安そうな表情で見上げてくる。 「大丈夫だよ、キラ」 そんな彼女に微笑み返せた自分をほめるべきだろうか。そんなことも考えていた。 |