間一髪で、ミネルバは地球軍を振り切ったらしい。しかし、未だに地球軍はオーブの領海の周囲をうろついている。 それが何を意味するのか。 ラウ達ははかりかねていた。 そして、事件が起こったのはその夜のことだった。 まさか、こういう逆襲に出てくるとは思わなかった。 「キラ、起きなさい」 外から伝わってくる不穏な気配に眉を寄せながら、腕の中の少女を揺り起こす。 「……ラウさん?」 何故、と言いながらキラは稚い仕草で目をこする。だが、直ぐにその表情が強ばった。 「着換えをして、子供達の所に行っていなさい」 その額にキスを一つ落とすとこう告げる。 「ラウさんは?」 「周囲の様子を見てくる」 大丈夫。直ぐに追いつくから。そう言いながら手早く服を身につける。ザフト時代にたたき込まれたこれが今でも役に立つとは思わなかった。そう考えながら引き出しから銃を取り出した。 「……はい……」 そう言いながらも不安が隠せないのは、彼女も戦場を知っているからだろう。 「あちらに着いたら、ラミアス艦長の指示に従うように。いいね?」 だからといって、彼女を連れて行くわけにはいかない。足手まといになるとは思っていないが、それ以上に子供達のことを守らなければいけないのだ。 「気をつけて」 ようやく気持ちを決したのだろう。キラはこう言ってくる。 「わかっている。無理はしないから安心しなさい」 こう言ったときだ。ドアがノックされる。 「起きているな?」 同時にバルトフェルドの声が響いてきた。 「もちろんだ。準備も……出来ている」 一瞬ためらったのは、キラのことを確認したからだ。それなりの時間、戦場で過ごしていからこそ、彼女もこういう時の身支度は早い。 「開けるぞ」 一拍の呼吸の後、ドアが開かれる。そして、バルトフェルドが顔を見せた。 「いけるな?」 確認するように問いかけられる。 「どちらを回ればいい?」 「食堂側を。キラは子供達と一緒に食堂にいろ」 その方が色々と安心できるだろう、というのは気遣われたのだろうか。もっとも、その対象はキラだろうが。 「はい……バルトフェルドさんも気をつけて」 キラはそう言うと頷く。 「わかっていると思うが、お前は銃を持たなくていいからな」 そう言ったのは、彼女の銃の腕前を心配しているからではない。きっと、人を撃つという衝撃を彼女に覚えさせたくないからだろう。 何よりも、キラの心がそれに耐えられるとは思っていない。 「ですが……」 「当たらない銃弾ほど怖いものはないからな」 室内では、とからかうように彼が言ったのも、そのためだろう。 「大丈夫だよ。それよりも、子供達の安全を優先しなさい」 再度ラウがこう言えば、キラは小さく頷いてみせる。 「何かあったら直ぐに大声を出せ。いいな?」 さらにこう注意を与えると、バルトフェルドはさっさと部屋を出て行く。それに続くようにラウもキラを促して廊下へと出た。 そのまま食堂へと移動する。 「キラ!」 「キラさん」 途中で子供達を連れたラクス達と行き会う。 「キラ」 背中をそっと押せば、彼女は小さく頷いてみせる。そのままラクス達のほうに歩み寄っていく。 それを確認して、ラウは建物の外へと出た。 |