「……アスランが?」
 プラントに? とキラは聞き返す。
「あぁ。あちらの様子を見てこい……と言うもっともらしい理由がつけられていたが、体のいい厄介払いだろうな」
 カガリの傍から信頼できる者を引き離そうとする、とバルトフェルドは口にする。
「あちらも動き出した、と言うことか」
 厄介だね、とラウはため息を吐く。
「おそらく大戦の英雄カガリを取り込んで、自分たちに都合のいい状況を作るつもりなのだろうが……」
「……アスランがいなくなると言うことは、ストッパーがなくなるということだね」
 別名、八つ当たりの……と彼は続けた。
「一応、あれでもそれなりに役に立っていたのだが……」
 どんなにキラ馬鹿で自分に都合のよい状況認識しなしなかったとしても、と口にしたのはバルトフェルドだ。
「とりあえず、内密にカガリと連絡が取れるようにしておかないとな」
 早急に、と彼は続ける。
「あちらも、早急に出航してもらわなければいけないだろうね」
 彼等の身柄はもちろん、あの艦とMSを奪われるのはまずい。既に三機、あちら側に渡っているとあっては、だ。
「マードックに確認してから、警告だけは出しておこう」
 後の判断はあちらに任せるしかないな、とバルトフェルドはため息を吐く。
「最悪、全員でプラントに行く、と言うことも考えておかなければいけないか」
 不本意だが、と彼は続けた。
「その前に、ロンド・ミナの所に転がり込む方が楽かもしれないけどね」
 少なくとも、あそこではキラが実験材料にされることはない。だが、プラントではどうだろうか。
「そのあたりのことはその後になってから考えてもいいか」
 それよりも、とバルトフェルドが言葉を重ねようとしたときだ。
「おじちゃん!」
 ノックの音と共に焦ったような子供の声が響いてくる。
「……おじちゃん……」
 ショックを隠せないというようにバルトフェルドが呟く。どうやら、まだそう言われる年齢だと思っていないらしい。
「まぁ、仕方があるまい。二十歳以上の年齢差があってはね」
 苦笑と共にそう言いながらラウは立ち上がる。
「本当に変わったな、お前は」
 そんな彼の背中にあきれているのか感心しているのかわからない声が飛んでくる。
「どうかしたのかな?」
 それを無視して、ラウはドアを開けた。
「あれが来たから、おじちゃん達を呼んできてって、ラクスお姉ちゃんが」
 即座に目の前の少女はこう言ってくる。
「……あれか……」
「ゴキブリだね、まさしく」
 本当に、と呟きながらどうやって撃退するべきか……とラウは脳裏で考え始めた。
 目的は間違いなく《キラ》だ。
 だが、下手にたたき出せば逆にあれの執着を煽ることになる。ここにアスランがいれば適当にケンカをさせて二人セットで追い出せるのだが。
「……なるほど。その理由もあったのか」
 ぼそっとそう呟く。
「だろうね」
 同じ結論に達したのだろう。バルトフェルドが頷いてみせる。
「でも、キラお姉ちゃん、マルキオ様とお出かけしたよ?」
 だから、いないの……と子供は付け加えた。
「おやおや。それは好都合だね」
 なら、どのような手段を使ってもいいということだろう。そう考えてラウは微笑む。
「君達はちょっとお出かけしていてくれるかな?」
 危ないかもしれないからね、と彼は付け加える。
「そうだな。それがいい」
 にやりと笑いながらバルトフェルドも頷いてみせた。
「そう言えば、キラがお庭の花が雑草に埋もれそうだと心配していたね」
 さりげなくラウは言う。
「……キラお姉ちゃんが!」
 なら、花壇を綺麗にしてくるね……と少女は笑った。そのままかけだしていく。
「相変わらずキラは人気者だ」
 まぁ、おかげで子供達を遠ざける手間が省けたが……とバルトフェルドがどう猛な笑みを浮かべながら言った。

 十分も経たないうちにユウナ・ロマが泣きながらマルキオの屋敷から飛びだしていった。
「おかしいですわね。正論しか申し上げておりませんのに」
 こう言いながらラクスは首をかしげる。そう言いきれる彼女は流石だ……と改めて認識をするラウだった。



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