自分の部屋だ、と言われた場所に行けば、そこではもうキラが眠りについていた。その穏やかな寝顔に自然と微笑みが浮かぶ。
 だが、直ぐにそれは消えた。
 マリューを送り出した後のバルトフェルドとの会話を思い出したからだ。
「で、他に何を隠しているんだ?」
 彼女には聞かせたくないことなのだろう? と続けられて唇に苦笑を刻む。彼の察しの良さはありがたいが、時々鬱陶しいと思える。だから、そりが合わなかったのだろうか。そう思いながら、ラウは口を開いた。
「あれと同じものがいるかもしれない」
 あるいは本人だろうか、と続ける。
「あれ、と言うと……」
「……ラミアス艦長と付き合っていた、戸籍上は愚兄と呼ばれていた存在だな」
 DNAから見ればまた違う存在だが、と苦笑を浮かべた。
「……鷹さんか」
 こう言ってバルトフェルドは渋面を作る。
「その可能性があることはマルキオ様から聞いていたが……」
 だが、連邦での研究は失敗したらしいと聞いていたのだが……と彼は続けた。
「……やはり、と言うべきなのかね」
 ため息とともにラウは言葉をはき出す。
「厄介だね、人の業というものは」
 そして、深い。
 だが、その人の業がなければ、自分はキラに会えなかった。それだけはわかっている。
「まぁ、俺たちとしては、この手で抱えきれる人間だけを守るだけだが」
 もっとも、お姫様達はそれだけで納得してくれないのだろうが。バルトフェルドは苦笑と共に続けた。
「まぁ、それなりに動ける人間が側に着いているから、大丈夫か」
 もっとも、キラについては責任を持てよ……と彼は笑う。
「もちろん、そのつもりだ」
 自分の命はキラのものだから。そう言えば、バルトフェルドは目を丸くする。
「まさか、お前の口からそんな言葉を聞くとはね」
 変われば変わるものだよ、とその表情のまま、彼は告げた。それが見られただけでも本心を告げた回があるのかもしれない。
「では、部屋に戻るとするよ」
 キラが待っているだろう。そう言えば彼は頷いてみせる。
「お姫様が明日、起きてこられないようにするなよ」
 これは今の仕返しだろうか。
「無理をさせるつもりはないよ」
 この腕に抱きしめていられるだけでいい。言外にそう告げれば、彼はさらにあきれたような表情を作る。
「その年で、もう枯れているとはね」
 からかうような口調でそう言ってきた。
「キラが望んでくれれば、話は別だが?」
 あくまでも、大切なのはあの子の意志だ。それ以外は二の次……と考えるあたり、自分もアスランと同レベルかもしれない。ふっとそんなことを考える。
「まったく、アスランに爪のあかでも飲ませてやりたいね」
 だが、バルトフェルドの目から見れば違うらしい。
「ともかく、俺はこれから少しでも情報を集めておく。キラにさせるわけにはいかないからな」
 それに関する情報集めは、と彼は続ける。
「お願いしよう」
 こう言い残すとラウはさっさと退散をした。
 そして、キラが眠っているこの部屋へと足を向けたのだ。
 そんなことを考えながらベッドの傍まで歩み寄った。
「……らうさん?」
 その瞬間、眠気が色濃く滲んだ声でキラが彼を呼ぶ。
「起こしてしまったか?」
 静かにこう問いかければ、首が小さく横に振られる。しかし、その動きは本当に緩慢だ。どうやら、彼女の思考は半分以上、眠りの中にあるらしい。
「とりあえず、何もしないからベッドに入っても構わないかね?」
 小声でそう問いかける。
 そうすれば、キラは小さく頷いて見せた。



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