ユニウスセブンを落下させたのは、ザラ派の者達だった。
 しかし、そんな彼等に武器を渡したのは別の存在だろう。
「……いったい、誰だろうね」
 そのようなことをするのは、とラウは呟く。
「放っておけばいいのだろうが……そのせいで、オーブにまで被害が及ぶようでは、な」
 大地に近づけば近づくほど、ユニウスセブン落下の衝撃がどれだけ大きかったのかがわかる。
「あの子は無事なのか。それだけでも事前にわかればよかったのだが……」
 さらにそう付け加えたときだ。
「よろしいでしょうか」
 背後から控えめな声が響いてくる。その声の主が誰なのか。確認しなくてもわかる。
「何かな?」
 小さなため息とともに視線を向けた。そうすれば、かつての自分と同じ顔がそこにはある。
「少し、よろしいでしょうか」
 話をしても、と彼は問いかけて来た。
「かまわないよ」
 微笑みながら、そう言い返す。
 自分たちが離れていた間、彼がどのように変わったのか。それを知りたいと思っていた。
 ギルバートのタヌキぶりは相変わらずだったが、彼であればあそこまでひねくれていないだろう。もし、ひねくれていたのであれば、それに合わせて対処するだけだ。心の中でそう付け加える。
「……貴方は、いつからオーブに?」
 しかし、ここまでストレートに問いかけてくるとは思わなかった。
「本土に戻ってきたのは、戦後だね。それ以前はジャンク屋ギルドとマルキオ様の連絡係をしていた」
 だから、あちらこちらに移動していたね……と付け加える。
 もちろん、それは嘘だ。とりあえず、それが一番無難な経歴だろうとマルキオ達と相談して決めた。
「そうですか」
 きっと、確認をしようとするのだろう。だが、そのあたりのことは守秘義務でごまかしてもらえるはずだ、と心の中で呟く。
「しかし、何故そのようなことが気にかかるのかね?」
 自分はあくまでも臨時でカガリの護衛に付いただけの人間だ。逆にそう聞き返す。
「……貴方が、行方不明になっている親戚に似ていること。そして、あなたの名字です」
 やはり、妙なところで素直なままだ。これはギルバートの功績なのだろうか。それとも、ストレートに問いかけた方がいいと思っているのか、とラウは微かに目を細める。
「あぁ。これは妻の名字でね」
 次の瞬間、にこやかな口調でそう言い返す。
「……妻、ですか?」
 予想外の言葉だったのだろう。レイは目を見開いてそう呟く。
「おかしくはないだろう?」
 自分の年齢では、と笑う。
「そう、かもしれませんが……」
 でも、と呟く声を聞けば、やはりそのようなことを想像してみたこともなかったのだろう。確かに、自分の時間の終わりを自覚したときに、必要以外のことを全て切り捨てた。その中には女性との付き合いも含まれている。だから、彼は自分がそのような情欲を持っているとは知らなかったのではないか。
 そして、相手の名字が《ヤマト》だ。
 彼等にとってその名前が与える影響は複雑なのだろう。
 しかし、全てのくびきから解き放たれたとき、自分が欲しいと思えた相手は一人しかいなかった。ただそれだけのことだ。
「しかし、そう言うことが気になると言うことは……君にも意中の相手がいると言うことかな?」
 小さな笑いと共にこう問いかけたのは、意趣返しのつもりだった。
「そういうわけでは!」
 しかし、さっと頬に朱をはいた姿を見た瞬間、悪戯心がわき上がってくる。
 だが、それは発揮されることはなかった。
「お前は何が言いたいんだ!」
 カガリの声が耳に届いたのだ。
「……何かあったのか?」
 この言葉とともに、声がした方向へ駆け出す。
「ここで、代表に危害を加えるものなんていないはずなのに」
 レイも即座に付いてくる。
「……まさか……」
 だが、直ぐに何かに気が付いたという表情を作った。思いあたる節があるのだろうか。そうは思うが、問いかけるよりもその場を確認した方が早い。そう判断をしてラウはさらに足を速めた。



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