しかし、物事というのはこちらの思うとおりにいかないものだ。 「……ユニウスセブンが?」 落下しているという。それも、誰かが故意にその軌道にユニウスセブンを移動させたらしい。 「えぇ。このままでは地球に甚大な被害が及ぶでしょう」 不本意ですが、とギルバートは言葉を重ねる。 「その前に、砕くしかないでしょうね、あの大地を」 この言葉の裏にどれだけの苦渋が隠れているか。それはプラントで暮らした人間でなければわからないだろう。パトリック・ザラはそれをナチュラルへの憎しみへと向けさせた。その一端を担っていた者としては、どのような だが、そんな表情をしたと知れば、キラが悲しむ。 何よりも、自分だって死者を悼む気持ちはあるのだ。 「……それで、いいのか?」 それしか方法がないとわかっているが、とカガリが問いかける。 「……死者を悼む気持ちよりも、今生きている人間を優先すべきだと考えますからね」 ギルバートはそう言いながら視線をラウへと向けてきた。 「違いますかな?」 そしてこう問いかけてくる。 「私個人の考えでしたら『Yes』と答えるでしょうね」 しかし、それをプラントの人間に押しつけるつもりはない。彼等にとってあそこがどれだけ大切な場所なのかは知っているつもりだ……とラウは言い返す。 「もっとも、プラントの方々がそう決断してくださったのでしたら、感謝するだけです」 オーブ本土には、自分の大切な存在がいるから……とさりげなく付け加えた。 「それはそれは……余計に心配でしょうね」 こう言いながら、ギルバートの目が意味ありげな光をたたえている。 「……ともかく、そちらがそう決められたのであれば、我々に異論はない。通信が回復すれば、協力することも可能なのだが……」 話題をそれからそらそうとするかのようにカガリがこういった。 「そう言って頂けると幸いです」 ギルバートもこれ以上この話題を続けない方がいいと判断したのだろう。彼女の言葉にこう言い返した。 「できれば、作業を開始するときには教えて欲しいのだが」 「もちろんですよ、姫」 その時には是非とも立ち会って貰おう、とギルバートは頷く。 「では、これから先お忙しいだろうから、我々は一度、部屋に戻らせて頂く」 言葉とともにカガリは腰を上げた。 「わかりました。お送りしましょう」 「いや、いい。ここから借りている部屋までの道は覚えている。そのような手間をかけて頂くのも申し訳ないからな、今は」 それよりも、対策に手を裂いて欲しい。そう言えるようになっただけ成長したと言っていいのだろうか。それとも、地上へ被害が及ぶからなのか。 どちらにしても構わないか、とラウは判断をする。 「……ご厚意に感謝します、姫」 ギルバートの方は流石にこれに皮肉を言う余裕もないのだろう。素直にこう言ってくる。 「では、我々はこれで」 そんな彼に頷くとカガリが動く。当然のように、ラウもその後に続いた。 「……全てが片づいたら、君と君に大切な相手とゆっくりと話をしたいと思うよ、ラウ君」 しかし、そんな彼の背中にギルバートはこう声をかけてくる。 「……機会がありましたら……」 まだ諦めていなかったのか、と思いつつラウはこう言い返す。 「それを楽しみに頑張るか」 本当に何を考えているのか。そう思いながらラウは何も言わずに部屋を出た。 「……あいつ、キラのことを知っているのか?」 ドアが閉まると同時に、カガリは問いかけてくる。 「知っているだろうね。彼はヒビキ夫妻の教え子の一人だ」 しかも、彼の初恋がヴィアだというのはそれなりに知られている事実らしい。もっとも、自分が直接確認したことはないが……とラウは付け加える。 「そうか……」 だが、彼女の中で彼が《危険人物》と認定されたのは間違いなく事実だろう。今はそれで十分だ、と心の中で呟いていた。 |