「……何故、サングラスを外されないのですか?」
 しかし、いきなりこう問いかけられるとは思っていなかった。サングラスと言っても、以前使っていたものよりは色が薄い。十分に自分の顔立ちが見えるものなのに……と思う。
「こいつは、事故で目を痛めているからな」
 ラウが答えるよりも早く、カガリがこういった。
「……そうなのですか?」
 信じていない、と言う表情でレイはラウを見上げてくる。その目線が以前よりも近くなっていることに気付いて微かな苦笑を唇に刻む。
「事実だよ。まぁ、極短時間であれば大丈夫だがね」
 でなければ、日常生活で困ることになる。自宅ならばともかく、このような場では特に……と続けた。
「確かに、そうですね」
 残念そう――と言うよりは悔しそう――な表情でレイは頷いてみせる。
「こいつの顔を見ても楽しくないぞ……少なくとも、私はな」
 たまに殴りたくなる、とカガリは平然と口にしてくれた。
「おやおや……それに関しては、既に御納得頂けていると思っておりましたが?」
 キラのことなら、と言外に付け加える。
「理屈では納得できても、感情的にはまだまだだ。まったく……人がちょっと目を離した隙にさっさとつばをつけてくれるような人間だからな、お前は」
 油断も隙もない、と彼女はにらみつけてきた。
「それは……私たちの問題ですよ」
 違いますか? と微笑み返す。それが余計に彼女の怒りを買ったのか。さりげなく足を踏みつけられた。
「……あの……アスハ代表?」
 この行動には驚くしかなかったのだろう。レイがこう呼びかけた。
「こいつがつばをつけたのは、私の大切な従姉妹なんだよ!」
 大切に大切にしていたのに、何でこんな胡散臭い奴に……と彼女は即座に言い返す。
「まったく……ある意味犯罪だろう!」
 九歳も年齢差があれば、と彼女は続けた。
「十九と二十七なら、妥協範囲ではないかな?」
「……つきあい始めたときの年齢を考えろ! 十六と二十五だぞ」
 どう考えても犯罪じゃないか! とカガリはあくまでも主張をする。
「政略結婚灘まだしも……傷心の十六歳を言葉巧みに落とすなんて」
 ぶつぶつと呟かれた言葉に苦笑を深めるしかできない。
「言っておきますが、口説かれたのは私の方ですよ?」
 自分に『生きろ』と言ったのも、と続ける。
「わかっているから忌々しいんだろうが!」
 そうでなければ、とっくに遠ざけている……と彼女が半ば吐き捨てるように口にしたときだ。脇から伸びてきた手がラウの顔からサングラスを取り上げる。
「何をするのかな?」
 反射的にそれを取り返す。犯人は言うまでもなくレイだ。
「……紫?」
 だが、彼は呆然とした表情でこう呟いている。
「それが何か?」
 この色ではいけないのかな? と笑いながら聞き返す。
 もちろん、これが生来に持っていた色ではない。キラが自分に時間をくれた時に変わってしまったのだ。
 しかし、これが自分たちの絆だと思えば嬉しい以外の感情は浮かんでこない。
 だが、それを彼に告げても意味はないのではないか。
 いや、いずれ話す日が来るのかもしれない。しかし、それは今ではない、と思う。
 キラの体調がよくなるまで彼女の耳に雑音は入れたくない。そうも考えてしまう。
「いえ……てっきり、蒼だと思っていましたので……」
 ため息とともにレイは口にする。
「しかし、お前らは本当によく似ているな」
 それをうけてだろうか。カガリがこう言ってくる。
「確かに蒼いと思っても仕方がないな」
 それならば、まだレイの方が年齢が近い分だけましだったのか? と彼女は首をかしげながら付け加えた。
「いや、まだラウの方がマシか」
 しかし、直ぐにこう言ってくる。
「何故ですか?」
 むっとしたようにレイが問いかけた。
「お前だと、もれなくデュランダル議長が付いてくるだろう?」
 レイ個人ならばともかく、彼は近づけたくない……と続ける。
「それは……」
「否定できないな」
 あの子には悪影響を与えそうだ、と頷くラウに、カガリが「そうだろう」と頷いて見せた。



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