とりあえず、自由に動けるのは食堂と自室、そして談話室のあたり……と決まった。
「まぁ、妥当なところでしょうな」
 ラウはそう言って頷く。
「そうだな。ただ、状況だけは出来るだけ知らせて頂きたい」
 そうでなければ、こちらとしてもどのような行動を取ればいいのかがわからない。そう続ける。
「極力、ご希望に添えるようにさせて頂くよ」
 二人を連れてきたのは自分だ。だから、安全にオーブにお返しする……とギルバートは微笑みながら言い返してきた。その言葉をどこまで信用していいものか。
 だが、意外と見栄っ張りなところがあるこの男が他国に失態を見せるはずがない。
「そうして頂ければ幸いですね」
 にこやかな口調でこういいかえせば、ギルバートがいやそうに眉をひそめたのがわかった。
「後は、決めなければならないことはあるのか?」
 その空気を察したのだろう。カガリが問いかけの言葉を口にする。どうやら、ラウとギルバートを早々に引き離した方がいいと判断したようだ。
 これはアスランをいじめすぎたかな、とラウは心の中で呟く。
 だから、自分がそのようなときにどのような態度を取るか、彼女も知っていると言うことだ。もっとも、アスランに対してのそれをカガリが止めたことはない。ラウがする方がもう一人がするよりもましだ、と認識しているのだろう。
 第一、ラウがアスランをいじめるときは、その前に彼がキラの前で不用意な言動を取ったときだけだ。
 それならば妥協範囲、と考えているに決まっている。
 しかし、自分とギルバート達がどのような関係だったかを彼女は知らない。
 何よりも、そのせいでキラの身柄が危険にさらされるようなことになればまずい、と判断したのだろう。
「こちらにはありませんよ、代表」
 自分だって、それは絶対に避けたい事柄だ。だから、と大人しく彼女の思惑に乗せられることにする。
「こちらもありませんわ」
 即座にグラディスが口を開く。
「あるとすれば、代表方に艦内のご案内をすることですが……それは、ここにいる者達が全員で行わなくてもよいことでしょうし」
 あちらのこともある、と彼女は続ける。
「そうですね。大切な作戦中に皆様のお手を煩わせるわけにはいかないでしょう」
 ラウもそう言って頷く。
「……そうだね。それでは、案内はレイに頼もうか」
 一瞬考え込んだ後で、ギルバートはこう言い返してくる。
「確かに、レイなら任せても安心か」
 こう言ったのは、アーサーだ。他の者達も口にはしないが頷いている。つまり、それがレイに対する彼等の共通した認識なのだろう。自分とは違うそれは、彼が努力して手に入れたものではないか。
 さて、ギルバートにはそれが認識できているのか……と心の中で呟く。
 どちらにしても、それは自分が口を出すべきことではないだろう。
「お願いして構わないのだろうか」
 とりあえず、と視線をレイに向けながらラウは問いかけた。
「命令なら、断る理由はありません」
 挑むような視線で彼は見つめ返してくる。
 もっとも、それは綺麗に無視をすることに決めた。彼のそれぐらいであれば痛くもかゆくもない。むしろ、厄介なのはその隣にいる少年の方ではないか。
 カガリへ向けられる怒りが普通ではない。最悪、その身柄に危害が加えられかねない、と感じるほどだ。
 もちろん、それに関しては理由があるのだろうが。しかし、それをこんなにも前面に出すのは、まだ幼いからだろう。
 どちらにしても、とラウは心の中で呟く。
 彼についてはあとで調べてみた方がいいだろう。
「では、解散」
 グラディスが指示を出すと同時に、その場にいた者達が動き出す。しかし、指名されたレイだけではなく隣にいた少年もその場に残っているのはどうしてか。
「ちょっと、シン!」
 どうしたの、ともう一人のパイロットの少女が彼の腕を掴む。
「別に。ルナが気にすることはない」
 それに彼はこう言い返す。
「シン」
 だが、直ぐにレイがため息混じりに口を開く。
「最終的に談話室に案内する。お聞きしたいことがあるなら、そこでしろ」
 言外に、自分もそうするから……と告げているような気がするのは錯覚ではないはずだ。
 さて、カガリにボロを出さないようにするにはどうすればいいか。
 とりあえず、彼女もその位のことは考えてくれるだろう。そう考えるラウだった。



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