相手に逃げられたのか。それとも、こちらが振り切ったのか。
 それはわからないが、戦闘は終わったようだ。
「アスハ代表。それに護衛の方も……よろしければおいでいただけませんか?」
 こう声を出してきたのは、確かこの艦の副長だったはず。
「それは構わないが……現状を説明して頂けるのだろうか」
 状況がわからなくて困っている、とカガリが言い返した。
「も、もちろんです」
 彼女の迫力に気おされたのか。彼は言葉を噛みながら頷いている。その態度に不安を感じるのはラウだけではないのではないか。
「なら、構わない」
 そうだろう、と彼女は視線を向けてきた。
「確かに」
 現状がどうなっているのか。それを知らなければ今後の行動に関して判断が出来かねる。
 何よりも、ギルバート達がどう出てくるか。
 それが自分たちの未来をお聞く左右するのではないか。
 以前の自分であれば適当に流されて終わっていたかもしれない。だが、今は違う。守りたいと思える存在が出来たのだ。
 その存在を守るためならば、自分の矜持を捨てるぐらい何でもない。
「……あの子が私のためにしてくれたことを考えれば、ね」
 どれだけ感謝をしても足りないほどだ。しかも、自分は一度、キラを含めて全ての世界を壊そうとしたのだし、と心の中で呟く。
 そんな自分でもいいと言ってくれたキラに、どうすれば償えるだろうか。
 そんなことを考えていると知れば、間違いなくカガリ達にキラに近づくことも許されないだろう。
 そうすれば、キラが悲しむに決まっている。だから、それだけは避けなければいけない。
「馬鹿なことは考えるなよ?」
 それに気付いたのか。カガリがこう言ってくる。
「わかっていますよ、代表」
 ご心配なく、と微笑み返す。
「では、ご案内頂けますか?」
 その表情のまま視線を向ければ、何故か彼は何度も首を縦に振ってみせる。
 先に立って移動を開始した彼の後を追いながら、おそらく《彼》も待っているのではないか、とラウは考えていた。
 もう一人の自分、と言える存在。
 だが、育った環境が違う以上、同じものだとは言えない。
 その彼が自分を見てどのような反応を見せるか。
 ギルバートのあれを見ていれば想像が付かないわけではない。だが、まだ彼等に真実を告げるわけにはいかないだろう。
 彼にもいずれ限界がやってくる。それを知っているキラは彼も救いたいと考えているらしい。同じ事をラウも考えている。だが、今しばらく、彼等を監察したい。
 自分が知っている彼等であれば、その技術を余計なことには使わないだろう。
 だが、自分が変わったように彼等も変わっているはずだ。
 いったいどのように変わったのかを見極めたい。
 第一、オーブとプラントの関係が今後どうなっていくのか。それもわからないのだ。
 そんなことを考えているうちに目的地に着いたらしい。
「艦長。ご案内してきました」
 室内に向かってこう呼びかける。
『ご苦労様、アーサー』
 言葉とともにドアが開かれた。
 中に足を踏み入れれば、そこにはギルバートや艦長だけではなく、この艦の主立ったクルー達も集められていることがわかる。しかし、自分が見知ったものはいない。と言うことは、おそらく、ここにいるもののほとんどがこの三年の間に任官したものなのだろう。
 どこも人手不足なのか。心の中でそう呟きながらゆっくりと彼等の顔を見回す。
 その中に、予想通りの顔を見つけた。カガリも気が付いたのだろう。一瞬驚いたような表情を作る。
 もっとも、誰もそれに不審は覚えなかったはずだ。と言うよりも、彼等のほとんどが同じような表情を作っていると言っていい。
「……とりあえず、改めて自己紹介と、この艦でどのようにお過ごし頂くか。話をさせて頂いてよろしいでしょうか」
 真っ先に我に返ったのは、艦長らしい女性だ。
「そうですね。その方がよろしいでしょう」
 色々と聞きたいことはあると思いますが、とラウは笑う。それについては後でも出来るだろう……と付け加えながら、視線を彼へと向ける。
 その瞬間、彼がにらみ返してきたのはどういう意味だろう。
 ひょっとしたら恨まれているのかもしれない、と思いながらもラウは笑みを崩すことはなかった。



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