しかし、ここに連れ込まれるとは思わなかった。
「……いいのか? これは最新鋭艦なのだろう?」
 ザフトの、とカガリも呟いている。
「議長直々のご案内だから、心配はいらないだろうね」
 もっとも、逃げ出すのは厄介になったかもしれない。だが、不可能ではないか……とさりげなく視線を周囲に走らせながら考える。
「どちらにしても、厄介なのは変わらないか」
 まぁ、しばらくは大人しくしているしかないのか……とカガリはいやそうに顔を歪める。
「そうしてくれると、私としても色々動きやすいね」
 ラウは小さな声でそう告げた。
「何があるかわからない以上、脱出ルートだけは確保しておきたい」
 そのためには、状況によってカガリの側を離れる必要がある。
 だが、彼女に何かあっても困るのだ。
 結論として、自分が傍にいないときには彼女に大人しくしてもらうしかない。だが、彼女の性格を考えれば、それが難しい、と言うことが悩みの種だったのだ。
「ここから出られれば、後はジャンク屋の者達に拾ってもらってもいいだろうしね」
「だが、外の様子がわからなければ動きようがないだろう?」
「もちろんだよ」
 だからこそ、カガリには大人しくいて欲しい。そう続ける。
「……何故だ?」
 二人で動いた方が情報を集めやすいのではないか。真顔で告げる彼女にラウは苦笑を浮かべた。
 そう言うところは彼女らしいと言っていいのだろうか。
 かつてはレジスタンスに身を置いていたと言うことも関係しているのだろう。
「今の君は、オーブの代表首長だから、だよ」
 そんなカガリが何かを探っていると知られては、国際問題になりかねない。
 だが、自分であればカガリの安全確保のためだ……といいわけが出来る。
「私のキラのためにも少しは大人しくしていて欲しいものだ」
 さらにこう付け加えた瞬間、カガリの頬が引きつった。
「《誰》の《キラ》だと?」
 勝手に所有物扱いをするな! と彼女は即座に言い返してくる。
「あぁ、そうだったね。キラが私のものなのではなく、私がキラのものだった」
 小さな笑いと共にそう言った。
「それでも気に入らないが……まぁ、妥協しておいてやろう」
 キラが選んだ以上、と彼女がそう言ったときだ。艦内が揺れる。これも、ラウには慣れ親しんだものだ。
「……何だ?」
 しかし、彼女は違うらしい。微かに目をすがめながらこう呟く。
「どうやら、出航したようだね」
 自分たちを乗せたままでもそうしなければいけない。そう判断したのだろう。
「説明してもらえればありがたいのだが……どうだろうね」
 まぁ、自分のことを疑っている以上、ギルバートは説明をするはずだ。でなければ、自分がどのような行動を取るかを知っているだろうし。
 そう考えたときだ。
 やはり経験のある感覚が彼を襲う。
「しかも……二つ?」
 一つであれば、きっとあれだろうという想像が付く。
 だが、もう一つとは……とラウは顔をしかめた。
 もう一人、いなかったわけではない。だが、その人物は三年前のあの日、死んだはずだ。
 しかし、と直ぐに思い直す。
 自分がこうして生きているのだ。相手が生きていたとしてもおかしくはない。
 だが、それならばどうしてキラ達の前に姿を現さないのか。彼であれば、当然にそうするはずだ。
「……三人目、はあり得ないだろうしな」
 ため息とともにこう呟く。
「ラウ?」
「どちらにしろ、厄介な状況になったと言えるだろうね」
 さて、どうするべきだと思う? と微笑みながら彼はカガリに問いかけた。



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