自分の姿を見たら、きっと驚くだろう。そうは思っていたが、ここまで表情に出てくるとは思っていなかった。
 それはそれで楽しいかもしれない。
「……失礼ですが、姫。そちらの方は?」
 必死に表情を取り繕いながギルバートはこう問いかけてくる。
「私の私的な護衛だ。気に入らなければ、部屋の外に出ているように言うが?」
 それに気が付いているはずだが、カガリは真面目な口調でそう言い返した。
 だが、内心では驚いているか楽しんでいるかしているはずだ。
 事前に彼女には告げておいてよかったな、と続ける。そうでなければ、彼女のことだ。きっとギルバートにつけいられる隙を見せていたはずだ。
「いえ。その必要はありませんよ。ただ、初めてお見かけする方でしたのでね」
 いつもの方ではないようですが、と彼は続ける。
「こちらの事情でな。彼には、いつもは他の仕事をして貰っている」
 それが何か、とカガリは逆に聞き返す。
「知人によく似ていたものですから」
 そう言いながら、彼は視線を向けてくる。
「同じ顔をしている人間は、三人はいると言いますからね」
 さらりとそう告げた。
「それよりも、議長。よろしいか?」
 これを好機と見たのだろう。カガリが口を開く。そして、その判断は間違っていない、と思う。
「あ、あぁ……そうだね」
 虚をつかれたのか。ギルバートは慌てて頷き返す。そのまま、視線を書類へと移動させた。
 だが、自分の存在が気になるのだろう。何度か視線を向けてくる。あえてそれを無視したのは、その方がオーブにとって利益になると判断してのことだ。
 数年前ならばともかく、今の自分にとって見ればプラントよりもオーブの方が大切だといえる。
 もちろん、それは彼の国にキラがいるからだ。
 自分が今ここにいるのもキラがそう望んでくれたからに他ならない。そうでなければ、間違いなくカガリ達は自分を戦犯として処分しただろう。
 それでも自分は構わなかったのだ。
 ただ、どのようなことをしてでも自分に生きていて欲しい。そう言ったキラの気持ちを無碍に出来なかった。そして、最後まで自分たちに未来を与えようとしていたヴィアの気持ちもだ。
 だから、自分はここにいる。
 その事実を彼等がどう受け止めるか。それはまた別問題だろう。
「……残念ですが、姫。それに関しては私の口からは何とも言いかねます」
 どうやら、一番厄介な問題についてカガリは告げたらしい。だが、さすがは経験の差、と言うべきなのだろう。ギルバートにしてもそれに関しての判断は間違わない。
「彼等が貴国オーブから我が国プラントに移住してきたのは、彼等自身の判断によるもの。彼等も、ここでの生活を確立させなければいけません。そのための手段を奪うことは私には出来ません」
 それは当然だろう、とカガリもわかっているはず。
「ならば、我が国の特許に起因する技術に関して、特許使用料は払ってもらえるのか?」
 こちらで調べただけでも、既に二桁以上の製品を確認できているが……と彼女は言い返す。
「そう言えるだけの根拠はお持ちかな?」
「もちろんだ。直ぐにでも資料を渡すが?」
 即座にカガリは言い返した。
 その資料がどのように作られたのかを覚えている身としては、多少忌々しい。だが、それも必要なことだとわかっているから、資料そのものについては何も言わない。
 ただ、それを作らせた人間に関しては後で報復をしてやりたいと思っても構わないのではないか。
 そのためには、カガリの足場をもっとしっかりとしなければいけない。
 だから、自分たちは協力しているのだ。もちろん、その理由は様々だと言っていいが。
「……とりあえず、それに関してはまた、と言うことでよろしいでしょうか」
 逃げたな、と思わずにはいられない言葉をギルバートは口にする。
 おそらく、対策を取る時間が欲しいのだろう。
「とりあえず、アーモリー・ワンをご視察頂いてから、次の話をした方がよいかと思いますが?」
 それにどうしようかというようにカガリが視線を向けてきた。
 時間があれば、さらに打ち合わせが出来るのはこちらも同じだとわかっているはず。ならば、と口を開く。
「ご心配なく。現状の護衛でも、その程度の対処は出来ます」
 とりあえず、彼女が心配しているのは護衛のことだ。そう言う認識にさせておいた方が後々いいだろう。そう判断をして言葉を返す。
「そうか」
 彼の考えが伝わったのだろう。カガリはそう言って頷いてみせる。
「では、ご案内頂こうか」
 カガリの言葉にギルバートは微笑む。だが、その後で向けられた視線の意味は何なのか。わからないはずがない。
 これをうまく利用できないか。そう考えながら微かな笑みを浮かべた。



BACKNEXT

 

最遊釈厄伝