「少しは落ち着きたまえ、カガリ・ユラ・アスハ」 長めの金髪をかきあげながら男が諌めるように言葉を口にした。 「それでは、あの男にいいように遊ばれるだけだぞ」 そうも彼は付け加える。 「ずいぶんと詳しいんだな」 顔をしかめながらカガリは言い返す。もちろん、半分はイヤミのつもりだった。 「知人だからね」 だが、何でもないように告げられた言葉に、逆に驚かされてしまった。 「おかしいことではあるまい」 だが、彼は平然と言葉を重ねる。 「私はこの国の国民だったのだよ?」 確かに、それはそうだ。しかも、かなり上の立場にいなかったか? と今更ながらに思い出す。忘れていたのはたんに、個人的な会話をする機会が少なかったからだ。 「……よかったのか?」 ここに来て、と聞き返す。 「今更だろう?」 戻るわけにもいくまい、と彼は微苦笑を浮かべる。 「それに、ごまかせぬわけではないからな」 自分の生まれであれば、さらに彼は言葉を重ねた。その意味は、カガリも一応聞かされている。そして、それを迂闊な相手に知られるわけにはいかない、と言うこともだ。 「まったく……キラも厄介な相手を選んだものだ」 ため息混じりにカガリはこう呟く。 「そうは言われても、困るが……」 相手はため息混じりにこう言ってくる。 「選んだのはキラだからね」 自分を、と続けた。 「わかっている。でなければ、お前なんてさっさとオーブから追いだしているに決まっているだろう」 自分だけではない。ラクス達だって同じ気持ちのはずだ。 「……まったく……キラがあんな状態でなきゃ、説得も出来るんだろうが……」 元気であれば、今度は一緒に出て行きかねない。そう考えれば、説得をするのも難しいのではないか。 「おかげで、私は殺されずにすんでいるがね」 苦笑と共に彼は続けた。 「バルトフェルド隊長は、隙あらば……と狙っているからな」 まぁ、それもキラのおかげで制止されているようだが……とカガリはまたため息を吐く。 「そう言うことだからね。できれば、キラから離れたくなかったのだが……」 自分がいないところであの子に何が起きているのかがわからない。今のキラの様子を考えれば、それがどんな結果をもたらすか……と彼はため息を吐いた。 「カリダおば様もラクスもいるから大丈夫だと思うが」 だが、確かに彼の立場であれば不安なのかもしれない。それだけは同意をしても構わないだろう。 「それもこれも、アスランが自爆をしてくれたのが悪いね」 でなければ自分が代わりに来ることはなかったはずだ。そう言って彼はため息を吐く。 「確かに、そう考えれば一番悪いのはあいつだな」 格好をつけようとして失敗しやがって、とカガリも頷いてみせる。 「ともかく、君は迂闊に口を開かないことを徹底するのだね。どうしても自力で判断できないときには、引き延ばして見えないところで相談をしたまえ」 そうすれば、オーブに不利になるような言質を相手に取られずにすむ。 「下手な行動を取れば、セイランがどのような行動を取るか、わからないしな」 それが一番厄介ではないか。彼はそう続ける。 「そうだな」 確かに、今一番警戒しなければいけないのはそのことだ。 「……わかっている」 カガリは頷く。 「私には、オーブの国民を守る義務がある」 それにはナチュラルもコーディネイターも関係ない。オーブの理念を信じてくれる者達を守るのは当然のことだ。それなのに、とある顔を思い出した瞬間、怒りがわき上がってくる。 「まぁ、いい。あれでもキラの盾ぐらいにはなっているだろうからな」 自分に残された唯一の肉親。それだけは失いたくない。そう呟くカガリに彼は小さく頷いて見せた。 |