父をはじめとした者達は、目の前の機体を見捨てろと言う。
 あれは、自分たちの《味方》ではないからと。
 しかし、一騎にはどうしてもそれができなかった。
 あれに乗っているのも、自分達と同じ《人間》だろう。それなのに、どうして彼らを見捨てられるのか。
 その理由を教えてくれたら、まだ納得できたかもしれない。
 だが、自分は何も知らされていないのだ。だから、と。
 その結果がどのような事態を引き起こすかもわからないまま、一騎はマークエルフをそちらに向ける。そして、そんな一騎の気持ちを総士は認めてくれた、と思っていた。

 だが、それは錯覚だったのだろうか。

「……あっ! あぁっ!」
 戦いから戻ってきたときには、体を重ねる。それがいつの間にか当たり前のことになってしまった。
 それが、自分の中の何かを打ち消す役目をしてくれているのは事実。そして、総士もそうなのだろうと一騎は思っていた。
 しかし、今日はいつもとどこかが違う。
「……そ、うし……」  彼の手が、いつもと違って乱暴であるように感じられるのは、一騎の錯覚だろうか。
「どうした?」
 刺激を与える手を止めることなく、総士が聞き返してくる。
「……怒って……る、のか?」
 勝手なことをしたから……と一騎は荒い息の下で何とかこれだけを絞り出す。
「どうして、そう思うんだ?」
 一騎の乳首に軽く歯を立てながら、総士が言葉をかけてくる。その刺激が、いつもと違うと一騎は思う。
「だって……」
 それを一騎は総士に訴えようとした。しかし、
「……ひぁっ!」
 彼の手が一騎のそれを包み込んだ衝撃で、言葉は声にならない。
「だって、どうしたんだい?」
 小さな笑いとともに、総士はゆっくりとそれに直接的な刺激を加えてくる。
「あっ……やぁっ! だめ……」
 びくびく、と一騎の足が震えた。それをどう思っているのだろう。
「教えてくれないとわからないだろう?」
 さらに笑いを深めながら、総士はさらにこう問いかけてくる。
 そんな彼に文句を言い返したくても、今一騎の唇から飛び出すのは甘い声だけだ。
「それとも、もう答えられない?」
 わかっていてやっているだろうに、と一騎は思う。それでも、今、彼が与えてくれる刺激を止められるわけにはいかない。
 せめてもの仕返しというように、一騎は彼の背に爪を立てた。
「痛いよ、一騎」
 だが、それすらも総士には予想されていた行動なのか。低い笑いとともに彼はこう告げる。
 そして、一騎のそれを刺激する指の動きを強めた。
「やぁぁぁっ!」
 一騎の体が大きく弧を描く。
 刺激に見開かれた瞳からは、次々に涙がこぼれ落ちた。
 今すぐにでも快感をはき出したいのに、それができない。総士の指が出口を塞いでいるのだ。
 快感もすぎると苦痛になるとは知らなかった。
 と言うより、知りたくなかったと言うべきか。
「も、許して……」
 頼むから、と一騎はとうとう哀願してしまう。
「じゃ、質問に答えてるんだ、一騎」
 そうしたら、気持ちよくしてやるよ……と彼は付け加える。
 まさか、そんなセリフを言われるとは思わなかった。そして、同時にこのまま放り出されるとも考えていなかった。
「これなら、十分に言葉を口にできるだろう?」
 だが、総士は総士で別の考えがあったらしい。こんなセリフを口にする。
 つまり、話さないうちは許してもらえない、と言うことだろう。
「……いつもと、さわり方が……違った、から……」
 だから、怒っているんだと思ったのだ……と一騎は泣きそうな口調で告げる。
「バカだな……」
 そうすれば、総士が苦笑とともに言葉を口にした。
「そんなはずがないだろう?」
 さらに付け加えられた言葉をどこまで信用すればいいのだろうか。
「あっ……あぁっ!」
 だが、再び動き出した彼に、一騎の思考はあっさりと快感に流されてしまった。

 戦いはさらに激しさを増していく。
 その間に、一騎の手の中からは大切な人々の存在が失われていった。
 そして……一騎と総士の間にも見えない壁ができてしまったような気がしてならない。
 それを打ち壊すにはどうすればいいのか。
 一騎はその答えを探そうとあがいていた。






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