一騎一人では竜宮島を守れない。
 それは最初からわかっていた事実だ。
 同時に、この島の子供は皆、この楽園を守るためだけに生まれてくる。できれば、その事実だけは一騎に伝えたくなかったのだが、そうも言っていられないだろう。
「他の……パイロット?」
 総士の言葉に、一騎は思わず眉を寄せた。
「そうだ……いくらお前でも、一人で戦い抜くのは無理だ」
 この言葉に、一騎は思わずむっとしてしまう。だが、総士はそんな彼にかんで含めるようにさらに言葉を重ねてくる。
「今までは、一カ所にしか敵は来ていない。だが、複数の場所に現れたらどうする? 一騎一人じゃ、無理だろう?」
 他の誰かを巻き込みたくはない、と思っていても……と言われてしまえば、納得をするしかない。だが、それでも他の誰かを戦わせるのはいやなのだ。それがどうしてなのか、一騎自身、うまく説明はできないが。
「心配しなくていい。僕が、きちんと一騎を見ていてやるから」
 他の誰かではなく自分が……と総士は微笑む。
「……総士……」
 その笑みだけで、自分は何も言えなくなってしまう。だが、本当にそれでいいのか……と一騎は思った。

 それでも、戦いがなくなるわけではない。
 そして、自分の意見が父や総士をはじめとした者達の耳に届くかというと、それもあり得なかった。

 新しく選ばれたパイロット達は一騎もよく知っている面々だった。それは、一騎に安堵をもたらすとともに不安をも生じさせる。
 戦いがきれい事だけですまないことを彼はすでに知っていたのだ。
 しかし、とも思う。
 自分だけではこの島を守れないことも、一騎は十分に知っている。だから受け入れなければいけないのだろうか、とも思う。
 それでも、総士とあの世界をともにするのが自分だけではないという事実に、一騎は一抹の寂しさを覚えていたこともまた事実だった。
 それが、どのような感情から生まれたものかまでは、わからなかったが……

 新しいパイロット達の訓練に総士が立ち会っている。
 その間、一騎はマークエルフの調整に立ち会っていた。
「……えっ?」
 そんな彼の視界の端を、誰かの影がよぎる。しかし、ここには自分以外いないはずなのに、と思いながら、一騎はさらに瞳を凝らす。そうすれば、少女の影が浮かんでいるのがわかった。
「待って!」
 その影が不意に遠ざかっていく。それをなぜか、一騎は追いかける。いや、追いかけなければいけないような気がしたのだ。
 まるで自分を誘っているような影を追いかけて一騎は、さらに島の下層へと進んでいった。だが、それは、本来一騎が足を踏み入れられない場所だったはず。なのに、なぜか知っているような気がする。それはどうしてなのか。
 そんな疑問を抱きながら、彼がたどり着いたのは、カプセルの中で眠る少女が安置されている場所だった。
「君が……俺を呼んだのか?」
 懐かしさの正体は彼女なのだろうか。そう思いながら、一騎は声をかける。
 それが引き金になったのか。
 彼女がゆっくりと瞳を開いた。
 そのまなざしは、どこか見覚えがあるようでいて、知らないもののようにも思える。だが、なぜか吸い込まれそうな気がしてならない。同時に、そうなれば、自分は《自分》でなくなりそうだとも思う。その恐怖が、一騎をその場から逃げ出させた。
 まるで、それにタイミングを合わせるかのように、基地内を警報が覆い尽くす。
「……敵襲?」
 一騎は、今までとは違って明確な意志でその場を後にした。

「最初に言っとく。俺は飛んだことないからな」
 この言葉を口にした瞬間、一騎のすぐそばに総士の気配が現れた。その瞬間、心強さを感じてしまう。だが、総士はまっすぐに前を向いたまま視線を向けてはくれない。
「心配するな」
 だが、それは一瞬のことだった。
「僕たち二人なら飛べるさ」
 力強い笑みとともに、総士は一騎を見つめてくる。
「そう思うだろ」
 その問いかけに、一騎はうなずく。
 そう、一人であれば無理なことでも彼と一緒であれば可能かもしれない。
 少なくとも、今はそう思っていた。






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