片腕を失った機体が戻ってきた。 それから降りてきた一騎の顔色がさえない。 「一騎……」 それも無理はないだろう。 初めての戦闘であんな恐怖と苦痛を味わったのだ、彼は。 直接あれにはつながれていない自分にまでも、その苦痛が如実に感じられたような気がしてならなかった。もちろん、それはあくまでも錯覚だったが。 しかし、一騎はそれを実際に体験したのだ。 その衝撃の大きさに、彼の精神が大きな傷を負った可能性すら否定できない。 すこしでもそれを和らげてやれるだろうか、と思いながら、総士は両腕を広げた。 「よくやった」 もう、大丈夫だ……と言いながら、総士は一騎を抱きしめてやる。次の瞬間、震える腕が総士の背中に回された。 「あそこ……には、誰が、いたんだ?」 そして、こう問いかけてくる。自分に武器を渡すために犠牲になったのは誰なのか、と言いたいのだろう。それは、史彦なのか、と。 「……父だ……」 隠していても、いずれはわかる。ならば、自分の口から告げてしまった方が良いのではないか。そう判断をして、総士はきっぱりと言い切った。 次の瞬間、一騎の表情が強張る。 「校長先生、が?」 自分のために死んだのか、とその瞳が問いかけてきた。 「一騎だけのためじゃない。この竜宮島のみんなのためだ」 だから、自分の責任だと思うな、と総士は一騎を抱きしめる腕に力を込める。 「だって……総士が一人になっちゃうじゃないか……」 一騎の唇から、こんなセリフが返ってきた。それに、総士は思わず苦笑を浮かべてしまう。今までだって、一人でいたようなものだし……その代わりに、一騎が誰よりも一番側にいてくれただろう、と心の中で付け加える。 それに、正確に言えば自分は《一人》ではないのだ。しかし、それを一騎は知らなくてもいい。 「父さんは……覚悟の上の行動だし……一騎が無事なら……それでいいんだ……」 これで一騎はますます自分から離れられなくなるだろう。 「……バカだよ、総士は……」 自分と父親を比べるなんて……と一騎は呟く。 「そうだね」 総士はうっすらと苦笑を浮かべる。 自分が何処か壊れている、とは自覚していた。そんな自分をこの世界に引き留めてくれていたのは父ではなく、腕の中の存在だ。 だから、自分が自分であるためには《一騎》の存在が必要なのだ、と総士はさらに心の中で呟きを重ねる。 「でも……一騎がいてくれたから、みんなが助かったんだ……」 そうだろう? と総士は一騎に問いかけた。だが、それに対する彼からの答えは返ってこない。もっとも、総士自身、それを望んでいなかったが。 「ともかく……みんなが待っている。顔を出して、無事なところを見せてやってくれ」 そして、これからのことを考えなければいけないだろう。 間違いなく、フェストゥムはこの地を見つけてしまった。 そうである以上、さらなる戦いが待っていることはわかっている。だが、と総士は心の中で付け加えた。 「そうしたら、義務は終わる……少なくとも今は……」 後は、何をしてもかまわないのだという彼に、一騎は顔を上げずに、呟く。 「なら……」 その後の言葉は、総士の胸の中に吸い込まれた。 |