平和だった楽園に、いきなり《敵》が押し寄せてくる。 いったい、何故、この地が発見されたのか。 それとも、今まで攻撃を受けなかったのは単なる幸運がもたらしてくれたものなのか。 それを知るものは、誰もいない。 ただ、これだけはわかっていた。 この地を守るためには、誰かが戦わなければならない。そして、それができるのは、現在、ただ一人しかいなかった。 「総士、俺たちはどこへ行くんだ?」 一騎がこう問いかけてくる。 その瞳が不安に揺れていることを総士はしっかりと気づいていた。 それも無理はないだろう。 一騎は何も知らないのだ。そして、自分も知らせないようにしていたのだ。 だが、これからはそう言うわけにはいかない。 「楽園だよ」 苦渋が滲んだ声で、総士はこう告げる。 本当にそうなのだろうか。 そう考えているのは自分だけではないのか。 だが、自分を含めて、この島の子供達は皆、この楽園を守るためだけに生まれてきたのだ。そして、それは一騎も例外ではない。 しかし……とさらに続きそうな言葉を無理矢理押し殺して、総士は彼をある場所へと連れてきた。 目の前にあるものの存在を見て、一騎は目を丸くしている。 それも無理はない。そう思いながらも総士はこう告げた。 「これで、この島を守って欲しい」 弾かれたように一騎の視線がそれから総士へと移動してくる。不安を帯びたその瞳すらも、総士の中では歓喜を呼び起こすものだ。それは、彼がすがれる相手は自分しかいないのだ、と改めて認識させてくれるものだからだろう。 「む、無理だよ、そんなの。出来る訳ないよ」 そして、一騎はこう訴えてきた。 「いや出来る。知ってるはずだ。君のその身体がファフナーと一体化できることを。もう、この島を守るにはファフナーに頼るしか手段がない」 いいよ、と言いたくなる気持ちを必死に押さえて総士はこう言い切る。 「総士……」 どうして総士がそんなことをいうのかわからない、と言うように一騎は目を丸くしている。 「行けるのなら、僕が行くさ」 ほんの少しだけ口調を和らげて、総士は言葉をつづった。同時に、いつの間にか彼の手は自分の左目に触れている。 その意図がわかったのだろう。 一騎は辛そうに顔を伏せた。 そんな彼にどう声をかけようか、と総士が悩んでいたときだ。 「本当に俺に出来るのか?」 顔を上げると、強い決意と共にこう問いかけてくる。 その心境の変化は、いったいどこから来たものなのだろうか。 「僕を信じろ!」 その疑問を消せないまま、それでも総士もこう言い返す。 「一騎一人を戦わせない。直接あれに乗って一騎と一緒に戦うことは出来ないが……僕はお前の側にいるから」 だから、必ず帰ってくるんだ……と総士は囁く。そして、そのまま彼の体を抱きしめる。 「……信じているから」 一騎を。こう付け加えれば、腕の中で一騎はしっかりと頷いて見せた。 最初の戦いは、何とか勝利を収める事が出来た――最も、失われたものも多かったが―― しかし、それはあくまでも入口であり、出口ではない。 その事実を、総士は知っていた…… |