さくら「首をかしげるし、飛ばないけど、しゃべるし、笑うよ?」 そう言いながらアスランが差し出してきたものを見て、キラは思わず目を丸くする。 「……アスラン?」 一体何を、とただでさえ大きな瞳をさらに大きくして、キラは親友の顔を見つめるのが精一杯だった。 「俺がいなくなると、キラが寂しがるかなって思って……」 本当は離れたくなんかないんだけど……とアスランは付け加える。 コーディネーターとナチュラルの対立が最近激しくなってきていた。あるいは戦争が始まるのでは……と言う危惧からプラントへと引っ越していく者も多い。そして、父親がプラントで仕事をしているアスランもとうとう呼び戻されることになってしまったのだ。 「……だって……」 それは無理もないだろうとキラは視線で付け加える。 出逢った日から今日までのほぼ十年間というもの、自分たちが二日以上離れたことなど片手の指の数より少ないのだ。 だが、これからは会いたくても会えなくなってしまう。 アスランには告げていないが、第一世代であるキラはプラントにはいけないと既に 両親から告げられていた。 「ほらほら、泣くんじゃないって」 そんなキラをアスランが慌てて慰める。 「例えキラがプラントに来れなくても、平和になったらすぐに会えるって」 誰だって、戦争なんてことを望んでいないのだから……と告げる彼の言葉に嘘は感じられない。 「……でも……」 「でも、何?」 「もし……戦争になっちゃったら?」 そうしたら、連絡も取れなくなってしまうのではないか……とキラは付け加える。 「大丈夫だよ。ちゃんと俺がキラを探し出すから……ね?」 言葉とともにアスランがキラの目尻にたまった涙を指で払った。 「本当?」 キラがアスランの顔を見つめながら問いかけてくる。 「俺がキラに嘘を言ったことがあったか?」 「……なかったっけ?」 アスランの言葉にキラは思い出そうとするかのように小首をかしげた。本当のところを言えば何度か嘘を付いたことはあるのだ。だが、それを嘘だと知らせないだけの配慮をアスランはしてきた。だから、気づいていないだろうと思う。 「ないだろう?」 きっぱりと言い切れば、キラはアスランの言葉を信じたようだ。小さく頷いている。 「だから、今度だってそうだよ。これを持っていてくれれば、すぐに見つけられる。だから、大切にしてくれるよな?」 そう言いながら、アスランは再び手の中の物をキラへと差し出す。 「うん……本当は、本物のアスランに側にいて欲しいんだけど……」 それは無理なんだよね……と言いながら、キラは口元に笑みを浮かべる。 「ごめんね、キラ……俺だって、キラの側にいてやりたいんだけど……」 どうして自分たちはまだ子供なのか…… コーディネーターは13歳で成人と認められる。だが、アスランもキラも、その年齢に達するまで後数ヶ月という時間が必要だ。そして、成人したからと言って、すぐに全てのしがらみから逃れられるわけはない。それどころか、逆にそれが強まってしまうだろう――特にアスランは―― 「わかってるよ、アスラン……」 キラは何とかこれだけを口にする。そして、笑みを深めようとするが、それとは裏腹に目尻から涙がこぼれ落ちてしまう。 『キラ……泣いちゃダメだよ、キラ』 その瞬間、アスランの掌の上にいたそれがこう言ってきた。その声は、キラも聞き覚えがあるものによく似ている。 「……アスランそっくりだね、お前……」 「一応……俺がモデルだからね……声もサンプリングして作ったし……」 だから、寂しくないよな? とアスランが言いながら、キラの手にそれをそっと乗せた。 「うん……この子で我慢する……」 でも、絶対連絡してね、とキラは付け加える。 「プラントに着いたら、すぐにメールを出すよ」 キラの言葉にアスランも何とか微笑みを浮かべると、言葉を返した。 「大好きだよ、キラ」 「僕もアスランが大好きだからね」 それだけは変わらない真実だと、二人はお互いの瞳の中にその思いを確認し合う。 その時、一際強い風が吹いた。 はらはら止まっていた桜の花びらが、一気に散る。 まるでカーテンのように桜の花びらが彼らの視界からお互いの姿を隠す。 「……アスラン……」 「もう、時間だ……行くよ、キラ……」 これ以上側にいては離れられなくなる……とアスランは泣き笑いの表情を作った。そして、キラに背を向けると駆け出していく。 「アスラン……」 その後ろ姿が見えなくなるまでキラはその場から動くことはおろか、瞬きをすることも出来なかった。 『キラ』 そんなキラを、アスランから手渡されたばかりの彼の姿を映したそれが現実に引き戻す。 「そうだね、帰ろう……もう一度、アスランに会えるまで……側にいてね」 キラは小さく笑うとそれに声をかける。 『キラ、大好き』 それはそう言うと笑った。その笑顔に、キラはとうとう堪えていたものが押さえきれなくなってしまう。 「……僕も、本当は……」 その後の言葉は声にならない。 手の中の物を抱きしめると、キラは崩れ落ちるように桜の花びらの絨毯の上へと膝をつく。 『キラ、キラ……泣かないで……』 彼らの上に、桜の花びらがはらはらと舞い降りてきた…… 終
03.06.13 up おかしい……ギャグの予定だったのにどうしたんだろう…… アスランがトリィの代わりに自分の姿と声をしたロボットをキラに手渡していたら……と考えたところから思いついたのですが、シーンがまずかったですね。10話か24話あたりにしておけばギャグになったのかと…… |