足下の砂を波がさらっていく。 「転ぶなよ、キラ」 それを楽しみながら歩いていくキラの耳にミゲルの声が届いた。 「大丈夫だよ……多分」 自信を持って言い返せないのは、他のことに注意が向いてしまえばどうなるか、自分でもわかっているのだ。 「キラ」 しかたがないなぁ、と呟きながらミゲルがゆっくりと歩み寄ってくる。そして、そのままキラの腕を掴んだ。 「見ていて恐いから、くっついてろ」 側にいたら、いくらでもフォローしてやれるしな……と彼は笑う。 「うん」 そうする、とキラは口にすると彼の腕に自分のそれを絡めた。そのまま、ゆっくりと歩き出せば、ミゲルも歩調を合わせてくれる。それが嬉しい、とそう思う。 「……綺麗だね、ここ」 そのままキラはこう呟く。 「作り物だって、思えないくらい」 この言葉に、ミゲルが優しい視線を向ける。 「このプラントは新しいシステムを採用しているからだろう」 そして、それを作り上げたのはキラではないか……と彼は口にした。 「まさか、本当にできあがるなんて思わなかったけどね」 できれば、きっとみんなの役に立つだろう……とは思っていたけど、キラは付け加える。しかし、実現には越えなければならないハードルがたくさんあったのだ。 ヘリオポリスに行ったのは、連中の目から逃れるためというのはもちろん、これに関する問題点を解消するための方法を探すためでもあった。 それがあんな結果を引き起こすことになるとは思わなかったが……とキラは小さな笑いを漏らす。 「お前が頑張ったから、みんなもつられたんだろうって」 何よりも、誰かさんにしてみれば、戦争に変わる新しい商売道具だしな……とミゲルは微かに苦いものを笑みに含ませた。 「それでもいいよ。これなら、人の命を引き替えに利益を得るわけじゃないし」 新しいプラントができて喜ぶ人はいても困る人はいないでしょう? とキラはミゲルを見上げる。 「まぁ、な。これなら、バカンス用で足を運びたい連中もいるだろうな」 もっとも、まだそこまで余裕がある人間はいないだろうがな、とミゲルは笑った。それだからこそ、自分たちがこうしていられるわけだが。 「難しいことはお偉方に任せておけばいいしな」 政治の世界に足をつっこむつもりは全くないのだから、と彼はさらに口にする。 「ラクスはそのつもりみたいだけど、ね。それに、カガリも、かな」 もっとも、彼女たちは最初からそのつもりで勉強を重ねていたのだから当然なのかもしれない。でも、とキラは心の中で呟く。自分はこれから何をすればいいのだろうか。そう思うのだ。 「……なら、そっちは彼女たちに任せて、俺たちは自分に何ができるのか、探すか」 そんなキラの心を読んだかのようにミゲルが言葉を口にしてくる。 「ミゲル」 「時間はあるんだし……あれこれやってみるのも楽しいんじゃないのか?」 そういって彼は笑う。 「まぁ、俺個人としてはキラと一緒にいられる仕事がいいけどな」 さらに付け加えられた言葉に、キラは自分の頬が熱くなっていくのを感じてしまった。でも、と思う。 「僕も、ミゲルと一緒がいいな」 ずっと、とキラも口にする。 「だよな」 くすり、とミゲルが笑いを漏らす。その後に何かを呟いたようだ。しかし、それが聞き取れなくて、キラは顔を上げる。そうすれば、ミゲルの顔がすぐ側まで近づいていることに気付いた。 その瞬間にはもう、彼の唇がキラのそれに重ねられる。 「……ミゲル……」 そっとはなされた瞬間、キラの顔は真っ赤に染まった。 「意地でも、一緒にいるけどな、俺は」 だから、キラは好きなことをすればいいって……とミゲルは口にする。 「……フレイが呼びに来たな」 そのまま彼はさっさと視線をそらした。その彼の目元がうっすらと染まっているように見えるのはキラの錯覚だろうか。 もっとも、それはどうでもいいことかな……とも思う。 「帰らないと、怒られるかな?」 「怒られるんじゃないのか? 今日は隊長達が来ると言う話だし」 オルガ達も転がり込んでくる予定だったろう? と彼は続けた。 「その話なら……帰らないとまずいよね」 フレイだけに用意をされたら、後で何を言われるかわからないものね、とキラも頷き返す。 「お前に被害はないと思うけどな」 小さな笑いとともにミゲルがこう告げる。 「その分、俺に来るんだろうけどな」 いつものとこか、と彼は笑う。 「それって」 「いいから、いいから」 それも楽しいから、と言われてしまえば、キラにはもう何も言い返すことはできない。 「それよりも、晩飯、期待しているからな」 今日はちゃんとしたのを作ってくれ、と彼はさらにキラに追い打ちをかける。 だが、確かにそういわれてもしかたがないことをやっている以上、認めないわけにはいかない。 「……わかったよ……」 今日はちゃんと調味料を確認してから使うから……とキラは言い返す。 「楽しみにしてる」 くすくすと笑いながらミゲルはキラの肩を抱き寄せる。キラもまた、素直にそれに従った。 砂浜に二人分の足跡だけが残される。それを波がそっとかき消していった。 終 |