三日月の寝台その後


 キラ、と言う成功例があったからだろうか。
 それとも、メンデルに隠されていた装置がほぼ完全な状態で残っていたからなのか。
 人工子宮を使用した次世代の誕生はさほど時間をおくことなく可能になった。
 もっとも、それは男女間に限ってのことだ。元々、人類が宇宙に居住できるようになる以前から、体外での受精は可能になっていたのだ。その応用と考えれば当然のことかもしれない。
 しかし、同性間となればそう上手くは行かない。
 一番の問題となったのは、卵子や精子の代わりとなるものの存在だった。
「こうしてみると、生物の体の仕組みって言うのは、よくできているもんだ、って感心するよな」
 ディアッカがぼそっと呟く。
「だが、不可能だとは誰も思っていないのだろう?」
 そんな彼に向かってイザークが即座にこう言った。
「そうですよ。だから、まだ研究が続けられているのではありませんか?」
 ニコルもまた、そんなディアッカ対し言葉を投げつける。
 自分もそんな彼らに同意だ、とアスランは心の中で付け加えた。
 研究を諦めると言うことは、自分たちの最大の希望を打ち砕かれると言うことと同意語なのだ。
「彼女たちに自慢されるのは我慢できるが……独占されるのは気に入らない」
 そして、アスランはついついこう呟いてしまう。
「同感だ」
「僕たちの方が、先にキラさんに出逢っていたんですよね」
 ラクスやアイリーンにだけ、キラの子――既にアスラン達の脳裏からはもう半分の遺伝子のことはきれいに忘れ去られていた――を手元に行く権利を与えてなるものか。
 それは彼らに共通した思いである。
「ルイーズ様のお話だと、良い対処法が見つかった……と言うことだが……」
 一年以内には何とかなるだろう……と言う言葉を信じたいと、アスランは付け加えた。彼女は自分とキラの子供を見ることを今は亡き母の代わりに切望しているから、と。
「それまでなら……お二方の自慢話も聞き流していられそうですね……」
 ニコルが微かに毒を含んだ笑みを浮かべながらこう口にする。
「それは、ここにいるもの、みな、同じ気持ちだって」
 キラを思う気持ちは勝るとも劣らない。そして、その血を引く子が欲しいと切望する気持ちだって負けているつもりはないのだ。ただ、自分たちが男で、彼女たちは女性。そして、キラが男だ、と言うだけで……
「そういや、今日、キラは?」
 最近はいつも一緒に行動しているはずのアスランが一人でいることにようやく気がついた、と言うようにディアッカが問いかけてくる。
「……施設だ……今日、あの二人のために準備をする、と言う話だったな」
 アスランのこの言葉を耳にした瞬間、その場にいた全員の表情が強張ったのは言うまでもない事実であった。

 実際に、同性間でも子供が出来るようになったのは一年半、経ってからのことだった。
 と言っても、確実に、と言うわけではない。あくまでも《実験》と言う事でよいのであれば……と言う言葉にも彼らがひるむわけはない。その日、万難を排して、彼らが集まったのは言うまでもないだろう。
「しかし、ずるいよな」
 こう言いながら、ディアッカはキラの腕の中にいた赤ん坊の頬をつつく。それはその子をいじめているわけではなく、彼なりの愛情表現だ、と言うことをキラは知っていた。
「女性陣はさっさとキラの子を手に入れやがって」
 可愛いから余計に頭に来る……という彼にキラは苦笑を浮かべる。
「仕方がないよ。本来、女性は、自分の体の中で子供をはぐくめるんだし」
 手続きが一つ少ないんだから……とキラは付け加えた。
「だけどさ……」
 まだぶつぶつと呟く彼にキラはさらに言葉を投げかける。
「それに、アイリーン様は早く跡継ぎが必要だっておっしゃっていらしたし……」
 でなければ不本意な結婚を強いられるから……と言うことで、彼女はキラに泣きついてきたのだ。そうなれば、ラクスが黙っているわけはない。あれこれ手を回した上で、キラにねだってきたのだ。
「アイリーン様はね、僕だって妥協しますけど……」
 だけど、ラクス嬢は……とニコルも怒りを隠せない。
「まぁ、いいじゃないか。今日はそのために集まったんだし」
 ようやく自分たちの番なんだから……と、アスランはキラに同意を求める。
「そうだよ」
 キラもまた微笑んで見せた。
 そのために、特別な設備も作られたのだから……とキラが付け加えれば、ようやくみんなが納得したか、のように思われた、のだが……
「……そうなんだが……」
 ふっとあることに気がついた、と言うようにイザークが口を開く。
「キラ……なんで一人分多いんだ? っていうか、相手は誰だ!」
 自分なのか、それとも他の誰なのか。
 それはアスラン達にしても見逃せない事実らしい。
「だって……みんなの子は、みんなの家に引き取られるんだし……母さんが自分が面倒を見られる子が欲しいって……」
 この言葉には、誰も反論をすることは出来ない。それは当然の権利だろうと思う。だが、とさらに詰め寄ろうとしたときだ。
「相手の人は……オーブの人で……ナチュラルだけど、凄く優秀なんだって。ナチュラルでも可能なのかどうか、チェックしたいって言う話で……」
 相手の人の同意も得られているから……とキラは付け加える。だから、自分たちの手元に置くことが出来るのだ、とも。
「そう、か……」
「相手がとやかく言ってこないならいいが……」
 それでも、と言う言葉をアスラン達は同時に飲み込む。
「それに、そのことでみんながケンカをするのはいやだし……」
 みんなで一人ずつならケンカにならないでしょう? とキラがさらに言葉を重ねた瞬間、アスラン達は即座に視線を泳がせた。
「相手の人は、父さんと母さんがお世話になった人だし……クルーゼ隊長さんの推薦もあったって聞いたから」
 次の瞬間、クルーゼの未来は決まったかのかもしれない。
「……まったく……余計なことを……」
 誰の呟きかはわからないが、それが彼らの本音だった。

 だが、それも自分の遺伝子を持った子供が人工子宮から誕生するまでのことだった。
 小さな存在が腕の中にいれば、全ては些細なことですませられるかもしれない。
 もっとも、実際には彼らが子育てをするわけではない。実際の所、それぞれの親の方が孫にめろめろで手を出しまくっていて、彼らが手を出せないというのが現状だ。
 はっきり言って、そんな評議会議員達の姿を一般の人たちが目撃すれば、最高評議会の権威は失墜するだろう。
 だが、当人達が幸せであればいいのだと、開き直っていたらしい……と風の噂で広まっていたらしい。そうキラに教えたのは、母のカリダだったという事実に、聞かされた当人はしばらくショックを隠せなかった。

「……おい……」
 だが、それ以上の衝撃がオーブにいるフラガを襲っていた。
「何だ、ムウ?」
 そんな彼に対し、にこやかな表情をクルーゼは向けている。それが怖い、とフラガは考えていた。だが、事実を確認しないわけにはいかない。
「それは、何だ?」
 フラガはクルーゼの腕の中に抱かれている存在を指さして問いかける。
「何だとは、異な事を」
 さらに笑みを深めると、クルーゼは言い返してきた。その瞬間、フラガはこの場から逃げ出したいと思ってしまう。いや、状況さえ許せばそうしていただろう。そう、ここが自分の家で、なおかつ玄関はクルーゼの背後でなければ、の話だ。下手に動けば、彼の手の中のそれがどうなってしまうかわからないと言うこともまた、フラガに動くことをためらわせる。
「お前と私の子に決まっているではないか!」
 当然、認知してくれるよな……と言うクルーゼの言葉を聞きながら、フラガは早々に意識を手放したのだった。
 その後、彼がどうなったのか。
 それを知るものはプラントにはいなかった。


ちゃんちゃん



3月28日に配布したペーパーのおまけ小説です。あのあとの話と言うことで(^_^;