「キラ……キラが俺のものになってくれないなら……俺はこの世界を滅ぼすかもしれないよ?」 アスランが優しい笑顔を崩さずにこう囁いてくる。 「……ア、スラン……」 彼の言葉の意味を、キラはすぐに理解をすることが出来なかった。いや、彼がそんなことを言うとは思えないし、思いたくもなかった……と言うべきなのだろうか。 「俺にとって大切なのは……今はもう、キラだけだ。そんなキラが、俺から離れていこうとするなら、こんな世界、いらない……って思わない?」 自分が望むものが全て失われるなら……とアスランはさらに笑みを深める。その表情は、キラの記憶の中にある彼のものとまったく変わっていない。それなのに、彼が口にしたセリフは、あの桜の中で別れたときの彼とは正反対の内容で…… 「アスラン……」 何よりも綺麗な翡翠の瞳の奧に、狂気が見え隠れしているような気がするのはキラの錯覚ではないだろう。 そして、アスランはよく自分が『頑固だ』と口にしていたが、実は彼の方が頑固だったと言うことをキラは覚えている。 例えば、キラがどんなに大丈夫だと訴えても、彼は自分をいじめた相手を許そうとはしなかったのだ。そして、当人達には我慢しがたい報復を行っていたこともキラは覚えている。 「俺は、本気だよ、キラ」 この言葉と共に、アスランは婉然と微笑んで見せた。それは、見る者の視線を釘付けにせずにはられないほどのものだと言っていい。しかし、その表情を見慣れていると言っていいキラには意味をなさないものではあるが。 しかし、キラは別の意味でアスランから視線を離すことが出来なかった。 間違いなく、彼は言葉通りのことをするだろう。 いや、世界を滅ぼすかどうかはともかく、キラの身近にいた者たちを彼は許すはずがないのだ。 キラがこうして彼の手を拒んでいるのは、彼らのせいだと思っているから…… 「……アスラン、何で……」 それでもこう言わずにはいられないのだ。 「僕なんて、世界と引き替えにする価値なんてないだろう? 第一、アスランにはラクスがいるじゃないか……」 プラントの歌姫。 優しい笑みの背後に隠されている強い意志。 健康な肉体。 どれをとっても自分とは比べものにならないほどアスランのためになるのではないかとキラは訴える。 「キラをどう思っているか……それは俺が決めることだろう?」 違うのか……とアスランは微笑んでくる。 「キラは、側にいてくれるだけで俺の心を癒してくれる。そんな存在は、もう、キラだけなんだよ」 だから、そんなに自分を卑下するな……と囁いてくれるアスランの声は優しい。だが、それがキラの心を斬りつけていると彼は気づいているだろうか。 「僕だって、アスランは好きだよ……でも……」 アスランだけを選ぶことは、もうできないのだ……とキラは彼に伝える。 その菫色の瞳に悲しみの色が浮かんでいることに、アスランが気づいてくれることを期待してはもういけないのか……と考えただけで、それは一粒の露となってキラの頬を伝い落ちてしまった。 「どうして、そんなことを言うんだ?」 もう、素直に自分の気持ちを口にしても、誰もとがめる者はいない……とアスランは囁きながら、そのキラの涙を唇で吸い取ってくれる。 「俺がキラを好きで、キラが俺を好きだって言ってくれるなら、何の問題もないだろう?」 違うの? と問いかけてくるアスランは、キラの記憶の中にいる彼そのままだ。 先ほどまでの狂気の光はその綺麗な翡翠の瞳からは消え去っている。 その原因が、自分のあの一言なのだろうか。 しかし、アスランは自分たちの感情に大きなずれがあることに気づいていないのではないか、とキラは思う。しかし、それを指摘した場合、またアスランが狂気に支配されるかもしれない。 「……僕は……」 どうしたらいいのだろうか……とキラは思う。 アスランは嫌いではない。 いや、今でも間違いはなく大切な《親友》だ。 しかし、それ以上の感情を彼に抱くことは出来ないのではないか……と言うこともわかっていた。 「愛してるよ、キラ……だから、俺の側にいて。ずっと……」 そんなキラの内心に気づいているのかいないのか。アスランはこう囁くと、キラの体を自分の膝の上へと移動させてそうっと抱きしめた。 その腕は本当に優しい。 これだけ思われているのであれば、いいのではないか……と言われるかもしれない。 間違いなく、アスランはキラを守ってくれるだろう。 それでも、キラは彼の手を取ることが正しいとは思えないのだ。 アスランを選べば、間違いなくキラは今まで過ごしてきた世界から切り離され、彼だけを見つめることを強要されてしまうから…… しかし、ここで彼を拒絶することも出来ない。 「……この戦いを……終わらせてくれる? ナチュラルもコーディネータにも、被害を広げることなく……」 ふっと、キラはこう問いかけた。 「キラがそうして欲しいって言うならね」 そうすればアスランは満面の笑みで言葉を返してくれる。 「俺は、キラにだけは嘘を付かないよ」 そして、キラがそう望むのであればすぐに叶えて上げる……ともアスランは囁く。 「……僕は……」 アスランが自分に向けている感情のように彼を思えないかもしれない。 だが、自分が彼を選ぶことでこの戦いに終止符を打ってもらえるのであれば……とキラは心の中で呟く。彼と共に過ごすことは決していやではないから、妥協できるのではないか、とも思う。 「どうしたの? キラ」 アスランはさらに笑みを深めながら、きらの頬にキスを送ってくる。 「この戦いが終わったら……でもいいなら……」 アスランの手を取ろう、とキラは囁く。 せめて、それまではここにいたい、とも。 「もちろんだよ、キラ。それで十分だ」 本当は、このままプラントに行って欲しいのだが、キラの体が耐えられないのであれば仕方がないね……との囁きと共にアスランはキラを抱きしめる腕に力を込める。同時に、そうっと唇がそっと寄せられた。 キラは瞳を閉じてそれを受け止める。 それが、キラ自身もまだ自覚していなかった恋の終焉だった…… 終
04.04.26 up 480000アクセスのキリリク作品です。「カミサマノイウトオリ」でアスキラエンド……と言うことでしたので、何とかがんばってみましたが……不幸ですね、キラ。しかし、どうしてもこれの設定だとこうなってしまうのですよ…… やっぱり、玉砕か…… |