「ミネルバ、ね」
 報告書を読んで、アスランは苦笑を浮かべる。
「ずいぶんとまた、危険な賭に出たものだな」
 そして、それを容認したのか、イザークは、とアスランは目をすがめた。
 もっとも、彼にしてもただ手をこまねいていたわけではないらしい。あのころ、キラの護衛をしていた《シホ・ハーネンフース》をキラの側に派遣したそうなのだ。しかも《FAITH》として。と言うことは、それにデュランダルも関わっていると言うことなのだろう。
 それに関してはかまわない。
 彼女であれば、確実にキラを守るだろう。
 だが、それだけではダメなのだ。
「さて……俺はどう動こうか」
 キラを守ると言うことに関しては問題がない。
 だからといって、イザーク達はもちろん、デュランダル一派とも手を結ぶつもりはない。
 一番重要なのは《自分》が《キラ》を守るということだ。
 他の誰かではいけない。
「立場上、難しいがな」
 隊を預かっている以上、全てを放り出すことができないというのも事実だ。
 それでも、何か手を打つことは可能だろう。第一、自分が動くとなれば彼女が見過ごすはずはないし……とアスランはため息をつく。
「結局、最大の難関は貴方ですか、ラクス」
 今も昔も……と呟いた。
「本当に、厄介な人だ」
 キラを守るためなら、彼女も何をしでかすかわからない。そう言う点では、よく似ているのだろうか、自分たちは。
「アスラン!」
 そんな彼の耳に、ニコルの少し苛立ちを含んだ声が届く。
 時計を見れば、会議の時間をとっくに過ぎているのがわかった。
「すまない」
 キラのことに気を取られていた、とは彼には伝えられない。だから、素直に謝罪の言葉を口にして立ち上がる。
「気を付けてくださいよ」
 ニコルがわざとらしいため息をつく。そんな彼に、アスランは苦笑だけを返した。

 同じ頃、別の報告書に目を通していたカガリはあきれたような表情を作る。
「何を考えているんだ、こいつらは……」
 こうはき出せば、ウズミはもちろん、キサカやトダカも苦笑を浮かべた。
「目先の利益だけにしがみついている、と言うところだろう」
 ウズミが言葉を口にする。
「それが、小さなことであれば目をつぶる。必要悪、と言うものも存在するからな」
 たとえば、プラントが開発していた新型。そして、オーブもまた国防のためと言って、新しい兵器を開発していたのだ。地球軍にいたっては、もう何も言う必要はないだろう。
「だからといって、見過ごせないものもあります!」
 特に、連中が地球軍に流した情報は……とカガリは言い返す。
「わかっている。だが、今の我々に何ができる」
 少なくとも、そちらに関しては、だ……とウズミが問いかけてくる。それに、カガリも言葉を失う。
 確かに《中立》であるオーブには何もできない。
 それでも、だ。
「……ですが、このまま手をこまねいているわけにも……」
「もちろんだ。これ以上、地球軍――いや、ブルーコスモスにオーブの秘密を漏らされては困るからな」
 それなりの対処は取らなければならない、とウズミは言い切る。
「ただ、表だってこの件に関して糾弾もできぬがな」
 忌々しいことに、あの家は五氏族家ほどではないが、それに次ぐほどの実力を持っているのだ。うかつな手段で糾弾をすれば、国内が混乱に陥るのではないか。
「それは……わかります……」
 そんなことになれば、あの連中がかならず介入してくる。
 最悪、オーブが大西洋連合と同盟を結ばなくてはならない状況に追い込まれるかもしれないのだ。
 オーブだけは、何が何でも中立を守り通さなければいけない。
 戦争を厭う者達の逃げ場所にならなければいけないのだ。
「……ですが……せめて、この情報をバルトフェルド隊長に伝えたいのですが」
 彼であれば、きっと適切な判断を下してくれるだろう。その認識があるからこそ、自分はキラがあの艦に乗り込むことを許可したのだ。
「それはかまわんが……方法はあるのかね?」
 直接、連絡は取れるのか、とウズミが問いかけてくる。
「直接では無理ですが……ラクスを経由してなら可能ではないかと」
 そして、彼女は信じられる……とカガリは信じていた。
「わかった」
 同じようにウズミも感じていたのだろう。
「お前の好きにするがいい」
 頷いてみせる。それにカガリもまた頷き返した。

「……まさか……」
 モニターをのぞき込んでいたメイリンが小さな呟きを漏らす。
「どうしたの?」
 それを聞きつけて、ルナマリアが問いかけた。
「キラさんとフレイさんのことを調べていたんだけど……これ……」
 そう言いながら彼女はモニターを指さす。
「だから、何なの!」
 はっきりと言いなさい、と言いながらルナマリアはモニターをのぞき込んだ。そこには、キラによく似た《少年》のデーターが映し出されいてる。
「ヘリオポリスのデーターを調べていたの。でも、キラさんのデーターはなくて……でも、この人も《キラ》なの」
 そして、キラとは性別以外、まったく同じデーターが記録されているのだ、とメイリンは口にする。
「でも……キラさんは女性で……しかも、妊娠中なのよ?」
 男なわけがないわ……とルナマリアは言い返す。
「わかっているの……でも、キラさんって、第一世代でしょう?」
 そう言いながら、メイリンは画面を切り替える。そこには信じられない内容が書かれていた。
「……性転換?」
「じゃないかなって……でも、そんなことは本人には聞けないし……」
 何よりも、書かれてあることが本当なのであれば、今、彼女がここにいること自体が奇跡だと言っていいのではないか、とルナマリアは判断をする。
「でも、何であんなこんなことを調べようなんて思ったの?」
「……シンに頼まれたの。私もちょっと興味があったし」
 でも、これを彼に伝えることはできないのではないか。メイリンはそう付け加える。
「当たり前でしょう?」
 これをシンが知れば、間違いなく本人に真実を確かめようとするだろう。
 いや、それだけならばいい。
 その結果、どのようなことが起きるのかわからないのだ。
「絶対、シンには言っちゃだめよ?」
 いいわね、とメイリンに念を押す。
「わかっているわよ」
 このデーターを見れば、うかつなことは言えない……と彼女も同意を示した。
「でも……きっとジュール隊長はこのことをご存じだったのよね」
 それでもキラさんと結婚したのは、それだけ好きだったからかしら。そう言って微笑むメイリンに、不覚にもルナマリアは同意を示してしまった。