傀儡の恋

BACK | TOP

  100  



「ラウさん」
 周囲に人がいなくなったところで、キラが呼びかけてくる。
「何かな?」
 それに穏やかな口調で彼は言葉を返す。
「僕は……」
「ゆっくりでかまわないよ。まずは考えをまとめなさい」
 何かを言おうとしてすぐに言葉を飲み込んでしまったキラに、ラウはほほえみかける。
「幸い、今すぐしなければならないこともないしね」
 そう続ければ、キラは少しだけ困ったような表情を作った。
「だから、そんな表情をしないでくれるかな?」
「……そう言われても……」
 うまくできません、と小さな声でキラは答える。
「ならばこれからできるようになればいい」
 言葉と共に彼の髪をなでた。
「大丈夫。すぐにできるようになるよ」
 さらにそう続ける。
「それで?」
 何を言いたかったのか、と最初の質問に戻った。
「ラクスと一緒に行こうかと……」
 キラはようやくそう口にする。
「……彼女を止めるには君の存在が必要だろうね、確かに」
 ラクスは優秀なコーディネイターだ。しかし、あくまでも女性である。その身を守るにはやはり男手が必要だろう。その役目はイザーク達がするにしても、だ。そばに親しい存在がいるといないとでは精神的な安定度が違ってくるはず。
「バルトフェルド隊長も安心できるだろうね」
 そう言ってうなずく。もっとも、そこに自分の居場所はないだろうが。
「それで、ですね」
 ラウが心の中でそうつぶやいたときだ。キラがさらに言葉を綴る。
「ラウさんも、一緒に来てくれませんか?」
 かろうじてラウが拾える大きさの声でキラはそう言った。
「キラ?」
「他にやりたいことがあるなら、そちらを優先してもらっていいんですけど……」
 それでも、可能性があるなら同行してほしい。彼はそう続ける。
「何故、かな?」
 まさか彼からそう言ってもらえるとは思わなかった。可能性がゼロだったとは言わないが、それでも言われない可能性の方が高いだろうと考えていたのだ。
「前に聞いたラウさんの言葉とちゃんと向き合いたいと思って……」
 視線を床に向けながらキラはそう言葉を返してくる。
「自分がどういう意味であなたにそばにいてほしいのか。それをちゃんと理解しないとだめだと思うんです」
「無理しなくてもいい」
 そんな彼にラウはそっと声をかけた。
「……今のまま曖昧な状況でも僕はいいんです。でも、それじゃラウさんを僕の都合で縛り付けてしまう」
 それではアスランと同じになってしまうのではないか。そう続ける。
「私自身はそれでもいいのだがね」
 キラがそう考えてくれるだけで十分だ。
「だが、覚えておいてほしい。君がどのような結論を出そうとも、私は君を愛しく思っているよ」
 そういえばキラは小さくうなずく。
「時間はまだある。ゆっくりと考えていい」
 キラが結論を出すまで自分はこうしてそばにいられるだろう。その時間が長ければ長いほどいい。
「一緒に進んで行ければもっといいがね」
「そうですね」
 ふわりとキラが微笑む。
「さて……まずは一緒に休憩しようか。お茶ぐらい、飲む時間もあるだろう?」
 この提案にキラがうなずく。そのまま彼を促すとラウは歩き始める。その隣を彼が歩く。
 この距離が離れることはないだろう。そう考えてラウはさらに笑みを深めた。

BACK | TOP


最遊釈厄伝